フランシスコ・モラの名前をネットで検索すると真っ先に出てくるのがフランシスコ・モラ・シニアの方です。壁画などでも有名なメキシコ出身の画家で、かなりの社会派でもありました。奥さんはエリザベス・カトレットでこの人も有名な彫刻家でありグラフィック・アーティストです。

 その二人の間に誕生したのがフランシスコ・モラ・ジュニアで、母方の姓もつけて、フランシスコ・モラ・キャトレットと称することも一般的です。ジュニアは1947年にワシントンDCで生まれていますが、育ちはメキシコシティです。

 そして、二十歳そこそこの時にキャピトル・レコードのセッション・ミュージシャンとして働いた後にバークリー音楽大学に入学して音楽を学びます。その後、メキシコをジャズの渦に巻き込むことに失敗したモラはサン・ラーのアーケストラに加入してドラムを叩きます。

 サン・ラー時代は4年間ほどだそうですが、彼の名前を一躍有名にしたのはこのアーケストラの経験です。何といってもあのサン・ラーの眼鏡にかなったドラマーですから、それは世間も一目置こうというものです。その後はデトロイトに腰を落ち着けて彼の音楽を模索します。

 ティト・プエンテなどにも教えを請うたそうで、試行錯誤の末に自らのラテン・ルーツに集中すべきことに思い至り、ラテン・ジャズ・グループ、アミーゴを結成します。この作品はそんなモラの初のリーダー・アルバム「モラ!」です。発表は1986年のことです。

 アルバムはAACEから発売と聞いて、アート・アンサンブル・オブ・シカゴを思い浮かべましたがあちらはAACM、こちらはモラの自主レーベルでアメリカス・オーソリティー・クリエイティヴ・エクスペリエンスの略称です。意気込みの伝わってくる名前をつけたものです。

 この作品は「アメリカ大陸におけるアフリカの遺産の存在を明らかにすること」を意図したコンセプト・アルバムです。また、汎アメリカの時空の旅でもあります。アルバムは「ウェルカム」で始まり、最後は「アスタ・ラ・ヴィスタ」、すなわち「シー・ユー・レイター」で終わります。

 体裁も見事にコンセプト・アルバムなわけです。そして曲も「アフラ・ジャム」、「ルンバ・モレナ」、「サンバ・デ・アモール」と汎アメリカ的ですし、「カルチュラル・ウォリアー」と出てくれば、モラの意図もとても明確です。アメリカ中の音楽を統合したジャズが展開します。

 参加しているアーティストはモラの他に11名もいます。ラテン寄りなだけにスティール・ドラムを始め、さまざまなパーカッション群が華やかです。ホーンも5人とアーケストラ的な大所帯です。デトロイト周辺のミュージシャンが多いようです。

 中でも目立つのはベースのロドニー・ウィテカーでしょうか。彼は後にテレンス・ブランチャードのクインテットで名前を成し、大西順子とも共演するなど大活躍をする人です。ここではまだ10代らしく、溌剌としたプレイでうならせてくれます。

 アメリカ大陸を網羅する音楽的経験となると、必然的にスピリチュアルが入ってくるのが面白いです。サン・ラーのように宇宙全体というわけではありませんが、汎アメリカ音楽を自身の内面で統合していく様はまるで修験者のようです。踊る修験者。

Mora! / Francisco Mora (1986 AACE)