イギリスのエース・レコードによるソングライターズ・シリーズの一つとして発表されたのが本作品「ホワット・ゴーズ・オン」です。ソングライターはご存じルー・リードです。このシリーズは要するに他のアーティストがカバーしたソングライターの曲を集めるというものです。

 トリビュート盤ではないので、このためにアーティストが集まってカバーしたわけではありません。すでに発表されているカバー曲を拾ってきてコンパイルしたものです。そのため、古くは1967年から新しいものは2019年までと半世紀の演奏が詰まっています。

 1967年はニコによる「ラップ・ユア・トラブルズ・イン・ドリームズ」です。これはリードがニコのソロ・アルバム「チェルシー・ガール」のために提供した曲ですから、カバーと言ってよいのかどうか。まあこのシリーズはそこにはこだわりません。作曲がルーでさえあればよい。

 そして最新の2019年はイギー・ポップによる「ウィー・アー・ザ・ピープル」です。こちらはルーの詩をイギーが朗読しているものです。ルーの詩人としての魅力がイギーの迫力の低音でびんびん伝わってきます。これがアルバムのトリを飾っています。

 この2曲以外の18曲は普通にカバーです。しかし、アルバムはここでこだわりをみせます。選ばれた楽曲はヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代とソロでは「トランスフォーマー」収録曲のみです。一曲だけ例外がありますが、それはヴェルヴェット前の曲です。

 その中でもやはりカバーしやすそうな曲ばかりが選ばれています。たとえばヴェルヴェッツの2枚目からは選曲がありません。そうして選ばれた曲を聴いていると、ルー・リードのロマンチックなソングライターとしての側面が強調されていて、これはこれでとても愛おしいです。

 もともとルー・リードはライヴではスタジオ作とはまるで異なったアレンジをすることが多く、「スウィート・ジェーン」などはライヴごとにまるで別の曲のようでした。それを考えあわせると他のアーティストがカバーしてもあまり違和感がありません。

 冒頭の曲はベックが2018年にオンライン・リリースした「僕は待ち人」です。ベックは過去にはヴェルヴェッツのデビュー・アルバム全体をカバーしたこともあります。ここのバージョンはとてもストレートなカバーでオリジナル曲の良さが際立ちます。

 有名どころでは他にブライアン・フェリーの「ホワット・ゴーズ・オン」、エコー&ザ・バニーメンのライヴによる「ラン・ラン・ラン」などがあります。バングルズのスザンナ・ホフスとマシュー・スウィートによる「サンデー・モーニング」は彼女たちのカバー集からの一曲です。

 レイチェル・スウィートのか細い声の「ニュー・エイジ」、スワーヴドライバーによるシューゲイザー版「ジーザス」、ダイナミックスによるレゲエ版「ワイルド・サイドを歩け」、アレハンドロ・エスコヴェドによるねっとりした「ペール・ブルー・アイズ」と聴きどころは満載です。

 ルーのカバー中最も売れた「パーフェクト・デイ」はここではカースティ・マッコールとエアン・ダンドのバージョンです。それでも、この曲に代表されるようにアルバムは普通に良い曲を書くソングライター、ルー・リードの魅力が詰め込まれています。これは楽しいカバー集でした。

What Goes On : The Songs Of Lou Reed / Various Artists (2021 Ace)