日本のインディーズの草分け的存在であった吉祥寺マイナーのピナコテカ・レコードから1982年に発表されたオムニバス・アルバム「なまこじょしこおせえ」です。決めきれなかったということで実は3種類のタイトルがありますが、断然このタイトルがいいです。訳わからん。

 この作品は香川県でビニール解体工場名義で活動していたデクが企画したコンピレーションで、相談を受けた第五列なるアーティスト集団のゲソがピナコテカのオーナー佐藤隆史を紹介して第五列プロデュース、ピナコテカ発売が決まったものです。

 参加しているアーティストはデク周辺からはデク本人が3曲、彼のデュオ「しかしつのなんぼ」が1曲、共同作業者の岡田明が2曲となっています。デクのスタイルは曲ごとに全く異なりますから、オムニバス向きです。いろんな音を入れたいのでしょう。

 その中ではアルバムのハイライトとも言われる「春の宴」が面白いです。これは高松市で行われたイベントでビニール解体工場のオープニングに白塗りダンスの背景に流された小川のせせらぎのフィールド録音です。LPではエンドレス仕様になっていました。

 第五列関係ではまずゲソの一人ユニットEAT、盛岡在住のオニック、彼がメンバーになっているICE9、その中心メンバー戸沢敏明、ゲソが加わった即興演奏を元にしたヒンドゥ・ハリケーンなどなど。第五列に係わったことがあるといえばOMCもそうです。

 さらにオニックとゲソのつながりでフランスのPPP、オニックのペンフレンドだったというスティーヴ・ベレスフォードとデヴィッド・トゥープのデュオなど海外からも参加しています。さらにインディーズ界の論客、竹田賢一率いるA-Musikやタコの大里俊晴も加わります。

 ここにヤタスミ、岡田佐登志、まだ、霜田誠二の4組を加えて全員を紹介したことになります。なんとなくオムニバスの輪郭が見えてくるように思います。一つのキーワードは地方ではないでしょうか。デクは香川、第五列のオニックは盛岡です。

 自主制作時代は東京や京都、大阪のみならず地方からの発信が結構強かった印象があります。ちょっとのんびりした感じが私は好きでした。このアルバムもぎすぎすしていないところがいいです。東京組である竹田や大里の演奏が少し浮いて聴こえる感じです。

 アルバムにはフォークあり、詩の朗読あり、電子音楽あり、酔っ払いの高歌吟唱あり、ペルシャ人のパジュワさんと飲み屋で一緒に歌った曲あり、ノイズまみれあり、アヴァンギャルドあり、フリージャズありと何でもありの様相を呈しています。

 しかし、聴き通してみると意外に統一感がある気がするのが面白いです。もともと「各曲のクレジットも順不同のため誰のものか特定できない謎のコンピレーション」でした。CD再発に際してはちゃんと曲順が明記されていますが、気にせずに楽しむことも十分可能です。

 「あなたの耳をほのぼのと凌辱する・・・・・・美美美美美しい初夏の調べの数々」という惹句はあながち間違いではありません。ちょっとのどかな「ストレンジなアッセンブラージュ」作品です。この頃の機材ならではのアナログ感が素敵です。

Infecund Infection / Various Artists (1982 ピナコテカ)