キンクスの4作目のアルバム「フェイス・トゥ・フェイス」は、ライナーノーツにて小松崎健郎氏が「彼らにとっての『リボルバー』だったに違いない」と書いている通り、キンクスにとってビートルズにとっての「リボルバー」と同様の意味合いを持ったアルバムです。

 それまでの作品では、キンクスはビート・グループとしてポップなロックンロール・スタイルをとっていましたが、この作品は全曲レイ・デイヴィスのオリジナル曲で占められ、当初の予定ではコンセプト・アルバムとなるはずでした。サウンド以上にアプローチが変化しています。

 その意味では「サージェント・ペパーズ」に先駆けているとも言えるわけです。面白いことにこの作品は「リボルバー」の2か月後、「サージェント・ペパーズ」の8ヶ月前の発表です。当時の英国ロック・シーンのダイナミックな動きをキンクスも担っていたわけです。

 レイのコンセプトは曲間をSEでつないで全体を一つながりの作品として提示するというものでした。レコード会社の反対でそうはなりませんでしたが、それぞれの曲はいかにもブリティッシュな皮肉に満ちた目で英国社会を描写したもので一貫性があります。

 そのため本作品をロック界初のコンセプト・アルバムとする人も多いです。キンクスはとにかく評論家受けがいい。音楽評論家はレイ・デイヴィスにシンクロする人が多いんです。レイ自身は根っからのミュージシャンではありますが、評論家的だと言えなくもありません。

 この作品にはキンクスの代表曲中の代表曲「サニー・アフタヌーン」が収録されています。ビートルズの「ペーパーバック・ライター」に代わって全英1位を記録した名曲で、どこからどう聴いても英国の香りが漂ってきます。米国でもトップ20に入るヒットです。

 歌詞はとにかくアイロニーに満ちていて、主人公はサニー・アフタヌーンにぼーっとしているのですが、税務署に財産を持っていかれて何も無くなった豪邸で他にすることもない状況です。これがまさにレイの真骨頂です。この風刺の視点はサウンドにも現れているようです。

 このアルバムを制作する前にはレイが神経衰弱でしばらく休養していましたし、ベースのピート・クウェイフも交通事故で休んだり、契約のごたごたがあったりとバンドは必ずしも十全な状況にはありませんでした。そういう時にはやはり傑作ができるものですね。

 「サニー・アフタヌーン」の他にもその姉妹曲「豪華邸宅売ります」、弟デイヴが歌う「パーティ・ライン」やゲストのニッキー・ホプキンスをいじった「セッション・マン」、インド音楽ブームを反映したかのようなタンブーラを使った「ファンシー」など聴きどころ満載です。

 録音には初めて数か月をかけ、音楽監督ともクレジットされるレイが渾身の力で作り上げたアルバムはチャート的には前作におよびませんでしたけれども、一般にキンクスの黄金時代の幕開けとなったと言われます。キンクスのスタイルが確立したということです。

 あまりにイギリス的なので米国ではさっぱりでしたが、それは勲章なのでしょう。とはいえ、それを突破した「サニー・アフタヌーン」の凄味も際立ちます。ボードヴィル調の名曲は後のブラーなどにつながる英国ロックの真骨頂です。

Face To Face / The Kinks (1966 Pye)