キンクスのような長命バンドですと、誰にでもあるデビュー・アルバムの存在が格別な輝きを放ちます。しかもスタジオ・アルバムの中ではチャート的に最大のヒットになっていますからその輝きもいや増しに増そうというものです。

 キンクスはレイとデイヴのデイヴィス兄弟を中心にロンドンで結成されたバンドです。パイ・レコードとの契約に成功すると、ほどなく1964年にシングル・デビューしました。最初の2枚は不発でしたが、3枚目のシングルが大ヒットしました。「ユー・リアリー・ガット・ミー」です。

 この曲はロック史に残る名曲です。1964年の曲ながら今でもしばしばテレビから流れてきます。ヴァン・ヘイレンによるカバーの大ヒットもあり、時代を超えた名曲であると思います。荒削りでぶっきらぼうなサウンドがまだ黎明期のロックの何たるかを教えてくれます。

 「ユー・リアリー・ガット・ミー」は全英1位に輝き、米国でもトップ10入りする大ヒットになりました。レーベルとしてはこうなるとアルバム制作を求めます。その求めに応じて制作されたのがこのアルバムです。なお、米国では「ユー・リアリー・ガット・ミー」と題されました。

 発表は1964年10月のことですから、キンクスはビートルズやローリング・ストーンズ、ザ・フーなどの名だたるバンドとほぼ同世代だと言えます。いずれも超大物バンドですが、キンクスはこの中ではあまりにブリティッシュすぎたために日本での知名度は見劣りします。

 当時の若いバンドのアルバムはカバー曲が中心になっていましたけれども、キンクスは全14曲中6曲をレイ・デイヴィスによるオリジナル曲で決めました。稀代の名曲「ユー・リアリー・ガット・ミー」ももちろんレイによるオリジナル曲です。

 カバー曲はチャック・ベリーを始め、ロックンロールやR&B、ブルースの名曲から選ばれています。キンクスがライバル心を燃やしていたローリング・ストーンズの初期作品と同じような構成ですけれども、こちらの方がオリジナル曲は多いです。

 それにキンクスは黒人音楽をカバーしてもそれほど黒っぽくありません。そこがストーンズとの大きな違いだと思います。どんなに真似しようと思ってもイングランドの出自が顔をだしてしまいます。後のキンクス・サウンドの方向性も素直に首肯できるサウンドです。

 アルバムの裏ジャケットには書かれているエッセイは「何世紀もの間、英語の中でKの文字が悲しいほど無視されてきた」といかにもイギリス人らしい書き出しで始まり、Kの文字にからめてキンクスを紹介していきます。こんなところがまさにキンクスらしい。

 とはいえ、当時、レイは若干20歳、弟のデイヴに至っては17歳です。ベースのピート・クウェイフが20歳、ドラムのミック・エイヴォリーも19歳ととにかく若い。老成したバンドの印象がありますが、さすがにまだ若くて突破力があります。若さに共鳴して胸が躍ります。

 なお、アルバムにはレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ、ディープ・パープルのジョン・ロードなどがセッション・ミュージシャンとして参加しています。彼らも若いですが、これはキンクスの若さを補うためでもあったようです。そんな話題も嬉しい素敵なデビュー作です。

Kinks / The Kinks (1964 Pye)