英国の伝統的なフォーク・ミュージックはトラッドと呼ばれることも多く、聴けばそれと分かる特徴的な音楽です。フェアポート・コンヴェンションは現代の楽器でトラッドを演奏し、ロックとトラッドを融合した斬新なサウンドで英国ロック界をゆるがせたバンドでした。

 この感覚は英国人にとってはどうなんでしょう。外来音楽であるロックと自国の伝統音楽との融合、日本に置き換えると民謡や祭囃子とロックの融合ということになるでしょうか。そう思うと、ノベルティにならずに融合させるのは至難の業であることが推測されます。

 フェアポート・コンヴェンションはザ・バンドに影響を受けていて、ザ・バンドが米国でその伝統音楽とロックの融合を試みたことに触発されてその英国版を作ろうとしたのだそうです。成功例のない民謡ロックよりもそちらの説明の方が腑に落ちますね。

 この作品はフェアポート・コンヴェンションを代表するアルバムです。全8曲のうち5曲がトラディショナル・ソングをアレンジしたもので、残りの3曲は自作曲ながらトラディショナルな5曲とまるで地続きです。トラッドを自分たちのものにしているということでしょう。

 この彼らにとって4枚目のアルバムはバンド史の上では大変な時期に制作されました。前作の制作が終わってから発表を待つ間に英国をツアーしていたメンバーの車が事故を起こし、メンバーのマーティン・ランブルと同乗者が死亡、他のメンバーも重傷を負いました。

 残されたメンバーは新メンバーを加えてバンドを続けることを決めますが、心には傷を負っており、ランブル以前のサウンドには戻れないとして新たな方向を模索します。それがトラディショナル・ミュージックを本格的に採り入れることでした。

 新たに加入したメンバーは、ランブルの空けたドラムにデイヴ・マタックス、トラディショナルなバイオリンを弾くデイヴ・スウォーブリックです。この二人を迎えたことでバンドのトラディショナルへの傾倒は本格的なものになり、本作が出来上がったわけです。

 フェアポート・コンヴェンションの看板ボーカリスト、サンディ・デニーはもともと時間が空いた時などにメンバーを前にトラディショナル・ソングを歌っていたそうで、感化されたベースのアシュリー・ハッチングスは本格的に研究するようになっていたということです。

 この二人が本作品の完成後、発売前に脱退してしまったことは皮肉なのですが、それだけこの作品の持つ特異な位置づけが分かるというものです。トラッドへの傾倒が突出した奇跡の一枚だったわけです。この作品によって彼らの名前は不朽のものになりました。

 この作品でもっとも有名な曲は8分にも及ぶトラディショナル曲「マティ・グローヴス」です。スウォーブリックのフィドルが大活躍する典型的なトラディショナルで、フォーク・ダンス的なリズムにのせてサンディーが物語を歌っていきます。中世の世界の香りがぷんぷんしてきます。

 本作品の発表は1969年です。ロックの世界にあらゆる新しいことが起こった年です。フェアポート・コンヴェンションの冒険も一連の革命の一つです。素晴らしい題材を選んできたものです。英国らしさとは何なのかということを教えてくれるアルバムです。

Liege & Leaf / Fairport Convention (1969 Island)