最初に見た時、レオ・スミスの名前にぴんときませんでしたが、何のことはない、ワダダじゃないですか。ワダダ・レオ・スミス。スミスは1980年代に入ってからラスタファリアンになり、ワダダの名前を使い始めています。このアルバムはそれ以前の作品です。

 「ディヴァイン・ラヴ」は1978年9月に録音され、1979年にECMレーベルから発表されたアルバムです。スミスの初めてのECM作品です。スミスのスタイルはECMととても相性が良さそうですが、これまでに同レーベルからは本作を含めて2枚しかリリースされていません。

 最近、この作品を「衝撃のピアニスト」ヴィジェイ・アイヤーが「全ての時代を通して最高の録音作の一つ」と絶賛したことから、再び注目を集めています。新世代のジャズ・ミュージシャンからの賛辞は80歳近いスミスには嬉しいことだったでしょう。

 スミスは20歳代半ばにシカゴで設立されたAACMの一員になり、前衛的なジャズの道を本格的に歩み始めています。楽器はトランペットです。完全即興音楽のデレク・ベイリーを中心とするカンパニーの録音にも参加していたと言えばその音楽性向の一端が分かります。

 本作品には3曲が収録されています。まずはA面すべてを使ったタイトル曲「ディヴァイン・ラヴ」です。ここではスミスがトランペットやフリューゲルホーン、そしてパーカッション、ドワイト・アンドリュースがフルートやクラリネット、テナー・サックスを演奏しています。

 加えてボビー・ノートンによるヴィブラハープとマリンバ。このトリオによる演奏です。ベースとドラムによるリズム・セクションなどはなく、沈黙と饒舌のあわいが見事な静謐なサウンドが展開していきます。ECMらしい澄んだ音色が魅力的です。

 アンドリュースは後に音楽理論とアフリカン・アメリカン音楽の教授として大学で教鞭をとるかたわら、舞台や映画音楽を手掛けることになります。一方、ノートンはスミスと活動を共にした後、鍵屋となって音楽の世界からは長らく遠ざかってしまいました。

 スミスも大学で民族音楽を学んでおり、理論を重視するタイプです。このアルバムでは、「リズム・ユニット」と「アークリアンヴェンション」という二つのシステムを使っていると語っています。後者はワールド・ミュージックのオールターナティヴを作ろうとしたもののようです。

 正直、スミスの解説は読んでもよく分かりませんが、何やら構造的なアプローチがなされていることは感じ取ることができます。即興を主体としながらも、そこに明確な構造が現れている、そんなぴりっとしたものを感じます。ブロックを組んでいるような感じ。

 2曲目の「タスタラン」はレスター・ボウイに捧げられており、ボウイ本人も参加しています。AACMつながりです。さらにECMに多くの作品を残したケニー・ホイーラーを加え、3人のトランペット奏者によるバトルが繰り広げられます。

 3曲目にはベースにチャーリー・ヘイデンが参加してソウルフルな演奏を披露しています。しかし、あくまで主役はスミスのトリオです。タイトル曲と同じシステムを使ったサウンドは見事に構築されています。確かにこの作品は傑作だと言われても誰も反論できないでしょう。

Divine Love / Leo Smith (1979 ECM)