ジャン=フィリップ・ラモーはバッハ、ヘンデルと並ぶ後期バロック最大の作曲家であると紹介されている記事を見ました。両者に比べると圧倒的に知名度は低いですが、それは私の知識の無さだと納得しておきましょう。音楽理論家としても高名な人だそうですし。

 ラモーは50歳を過ぎた頃からオペラの作曲に没頭するようになったそうで、そこからフランスでは指導的な地位をしめる作曲家になっていきました。名声を博した頃にはすでに人間が出来上がっていたわけで、音楽理論に長けているのも分かる気がします。

 本作品はフランスの指揮者であるマルク・ミンコフスキが同じくフランスの作曲家ラモーによる楽曲を集めた作品です。タイトルは「サンフォニー・イマジネール」、直訳すれば「想像の上の交響曲」となります。ラモーがこういう交響曲を作ったわけではないのが面白いところ。

 ミンコフスキはラモーのオペラ11作品から聴きどころとなる16曲を選び、そこに1曲だけコンセールからの曲を追加した全17曲をここで披露しています。いわばコンピレーション・アルバムです。その編集結果を「サンフォニー・イマジネール」としたのが何とも小粋です。

 名曲集はクラシックであってもよくあることですけれども、それを並べて一つの曲名を当てはめたのはあまりみない試みです。ミンコフスキ―はけっして作曲家を利用するつもりではなく、地上に降臨した最高のオーケストラ・マスターに敬意を表するのだと言っています。

 やはり切り刻むのは後ろめたいものなのですかね。それでも選曲は大そう楽しかった様子で、その喜びをみんなと分かち合いたいのだとも語っています。そういう発言を聞くと、ミンコフスキがラモーをいかにリスペクトしているのかがよく分かります。

 演奏しているのはミンコフスキ自身が1984年に創設したレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル、すなわちルーブル宮音楽隊です。古楽器を用いるオーケストラと合唱団であり、近年は20世紀の音楽も演奏するそうですが、やはり得意はフランスのバロック音楽です。

 古楽器を使っているということですけれども、それほど大昔の楽器というわけではありませんし、言われなければ分かりませんでした。オーケストラの場合は録音の仕方で随分サウンドが変わるものです。少々の楽器の違いよりもそちらが大きい。

 ミンコフスキ自身ももともとバロック・ファゴットの奏者としてキャリアをスタートしており、バロック音楽がレパートリーの中心です。その彼が創設した音楽隊を指揮して、フランス・バロック最大の作曲家ラモーのエッセンスを凝縮したアルバムを作ったわけです。

 そうした背景を知ると、愛してやまない作曲家の膨大な作品群から17曲を選曲する作業は本当に楽しかっただろうなと想像できます。その喜びは演奏にも表れていて、情感豊かでいて清冽な演奏が堪能できます。得意なレパートリーを嬉しそうに演奏している感じ。

 アルバムは打楽器のソロで始まります。ばらばらの17曲を一つの交響曲に編集しようとする意図がここで明確になります。その意図は実に見事に貫徹しており、私などはすっかり「サンフォニー・イマジネール」という曲があるのだと思ってしまいました。さすがです。

Rameau : Une Symphonie Imaginaire / Marc Minkowski (2005 Deutsche Grammophon)