「イエロー・サブマリン」は中学生の私にとってはなかなかにハードルの高い作品でした。日本のアニメばかりではなく、ハンナ・バーバラやディズニーなどのアメリカのアニメも見ていましたが、大人向けのアニメは鬼門でした。見終わった後、一様に黙ってましたね、みんな。

 アニメ作品は1968年に公開されています。お話は平和が失われた理想郷に音楽で平和を取り戻すというもので、ビートルズの楽曲から物語が生まれています。愛と平和のサイケデリック文化を背景にしたよく出来たお話ですけれども、当時それほどヒットはしませんでした。

 ビートルズ自身の発案によるものではなく、持ち込まれた企画だったこともあり、メンバー自身は制作にはほとんどタッチしていません。彼らに課せられたのは新曲の提供で、計4曲が新たにレコーディングされました。あまり気合が入っていなかったようではあります。

 サウンドトラックは、この新曲4曲にタイトル曲、「愛こそはすべて」をくわえた6曲をA面に配し、B面にはジョージ・マーティンの映画スコアが収録されるというものでした。まだまだ子どもにはLPは高価でしたから、このアルバムを前に悩ましい思いをしていたものです。

 そんな懐かしい状況をすかっと解消したのが本作品、1999年に発表された「イエロー・サブマリン・ソングトラック」です。映画にはビートルズの既発曲がアルバム収録の2曲以外にも使われていました。映画スコアの代わりにそれらを収録したのが本作品です。

 ここには全部で15曲が収録されており、図らずも「ザ・ビートルズの音楽性が一気に花開いた、ザ・ビートルズ中期(’65-’67年)のベスト・アルバム!」になっています。「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」や「エリナー・リグビー」なんて入っていますし。

 さらに驚くべきことに、このアルバムは「全曲、ザ・ビートルズ史上初のリミックス&デジタル・リマスタリングされたステレオ音源」です。ビートルズはとても大事にされていて、CD化に際しても勝手なリミックスやリマスターをさせずに、実に丁寧に作業をしていました。

 ここでのリミックス作業が面白いです。彼らは当時4トラックのテープを使っており、トラックを使い切るとそれをミックスダウンして3トラックを空けてさらに音を足していました。今回はミックスダウンしたトラックをまず分離し、残りの3トラックも分離して新しいミックスを施しています。

 ミックス・ダウンしたものが分離できるというのも驚きですが、一つ一つの音を丁寧に拾っていくんでしょう、ビートルズならではの丁寧な仕事です。ともかくこうしてマスターテープ以前の段階まで戻してからのリミックスという画期的な作業でビートルズの楽曲が蘇りました。

 左右チャンネルがくっきり分かれた疑似ステレオ調はなくなり、サウンドはシャープに、そして広がりと奥行きが増して、立体感のある現代的な音像となりました。こうして新しいビートルズが聴けるのは大変にありがたいことです。

 しかし戸惑いは隠せません。もこもこしたサウンドが頭にこびりついていて、新しいビートルズを受け入れにくい自分がいます。何ならジョージ・マーティンの映画スコアも恋しい。ビートルズくらいポピュラーになるとリミックスも難しいものです。

Yellow Submarine Songtrack / The Beatles (1999 Apple)