映画「トレインスポッティング」の監督はダニー・ボイル、主演はユアン・マクレガーというと有名人を起用した映画に思えてしまうところがこの映画の凄いところです。この映画は当時全く無名の二人を一挙にスターに押し上げたカルト・ムービーです。

 映画は文句なく面白かったです。ただし、青春映画としては日本育ちの優等生の私とはあまりに共通点がなさすぎて、そういう意味での感情移入の余地はありませんでした。むしろ人の心理を扱ったSF的な感覚で楽しんでおりました。

 映画が面白かったのでアーヴィン・ウェルシュの原書にも挑戦したのですが、こちらは10ページも読まずにギブアップしてしまいました。この小説、英語のつづりが訛っているんです。こんな小説は初めてでした。徹底して若者を描いています。

 それでこのサントラです。映画にはふんだんにロックないしはクラブ系の曲が使われており、サントラにはそれらの曲が収められています。映画のスコア的なものは一切ありません。さながらヒット曲集の趣きです。これが映画ファンと音楽ファンを結び付けて大ヒットしました。

 本作品のために提供された新曲もあれば既発曲もあります。提供された曲ではプライマル・スクリームのその名もずばり「トレインスポッティング」というインストゥルメンタル曲が目立ちます。彼ららしいちょっとダークな中毒性の高い楽曲です。

 既発曲ではイギー・ポップの2曲とルー・リードの「パーフェクト・デイ」。後者は「トランスフォーマー」収録の地味な曲でしたが、前年のデュラン・デュランによるカバーに続いて本作品に使われたことで人気が爆発し、翌年にチャリティー・シングルとして全英1位となりました。

 さらにはニュー・オーダーの「テンプテーション」やブライアン・イーノの「ディープ・ブルー・デイ」などが過去曲です。こうした曲も効果的に使いながら、同時代の若いバンドの曲を使った構成がこのサントラの妙味で、その選曲の良さが大ヒットにつながったのでしょう。

 本来、亥の一番に触れるべきだったのはアンダーワールドの「ボーン・スリッピー」でした。この曲は前年にはシングルで発表されていましたが、このサントラに収録されたことで一躍注目を浴び、アンダーワールドを一気に人気者にしたのでした。

 もともと「ボーン・スリッピー」と「ボーン・スリッピーNUXX」という二つの曲があり、サントラ収録はNUXXの方なのですが、こちらが大ヒットしたため、今や「ボーン・スリッピー」といえばこちらをさすことになりました。映画のクライマックスに実に効果的に使われていました。

 このほかにはパルプやブラー、ダモン・アルバーンのソロ、エラスティカ、レフトフィールド、スリーパー、ベッドロックが収録され、なぜかアルバムとしての統一感があります。これは相当なことです。このサントラが特別であることの証左であると思います。

 映画はミニシアター・ムーヴメントの先駆けとされ、映画と音楽の関係をも刷新したと評されるエポック・メイキングなものでした。サントラはその音楽部分として、映画と不可分なものになっています。単体で独立して楽しめる楽曲ばかりなのにとても不思議です。

Trainspotting / Original Soundtrack (1996 EMI Premier)