アメリカが戻ってきました。前作は柄にもないお洒落ジャケットでしたけれども、この作品は垢ぬけない以前のスタイルに戻りました。大成功しているバンドなのに、この野暮ったいジャケットはどうなんでしょう。私などは大変うれしく思いますけれども。

 ただし、三人の晴れやかな表情はとても印象的です。これまで屈託を内包して、どうにも硬い表情だった爽やかトリオはここではにこやかに心の底から楽しそうです。裏ジャケットはさらに笑顔が際立っています。ようやく成功に自信がもてたのでしょう。

 前作で大復活を遂げたアメリカは再びジョージ・マーティンと組んで新作「ハート」を作り上げました。しかし今回はロンドンではなく、地元カリフォルニアにマーティンを呼びよせてアルバム制作にあたりました。ちょっとだけアメリカンに寄せてきました。

 参加ミュージシャンはトリオに加えて、準メンバーとも言えるベースのデヴィッド・ディッキーとドラムのウィリー・リーコックスの二人で、まるで5人組のバンドです。レギュラーなバンドでアウェイのマーティンに対峙したことで良い効果を上げたように思います。

 その成果の最たるものがアルバム発売と同時にシングル・カットされたアメリカの代表作「金色の髪の少女」です。ジョージ・ハリソンの「マイ・スイート・ロード」に着想を得たと言われるギターが印象的な曲でアメリカにとって二枚目の全米1位獲得シングルになりました。

 この曲は1970年代半ばの爽やかポップスを集めたコンピ盤には必ず入る名曲です。私はイングランド・ダン&ジョン・フォードの「秋風の恋」とどうしても混同してしまいます。特に似ているわけではなく、同時代のフォーク・ロックの突出した名曲という共通項があるのみです。

 この曲の他にも冒頭の「デイジー・ジェイン」とレゲエを採り入れた「ウーマン・トゥナイト」がそこそこのヒットを記録しました。アルバムも「金色の髪の少女」に引っ張られるように全米4位となる大ヒットになりました。まさに順風満帆です。

 前作を初めて聴いた時にはそのマーティン色に驚いたわけですが、ここではもはや驚きません。むしろアメリカ録音でマーティン色が薄まったように思えます。そのため、マーティンに引き出されたアメリカの個性が確立した観があります。

 ただし、マーティンも黙っているわけにはいかないのでしょう、最後の「トゥモロウ」や「シーズンズ」などはストリングス盛りだくさんのディープなマーティン仕様です。彼はこの後、ベスト・アルバムにて初期のヒット曲をマーティン仕様でリミックスしていきます。幸せな関係ですね。

 そんなわけで、このアルバムはデビュー作が思いがけない大成功を収めたことで悩みを抱えたアメリカが、ようやくそのトンネルを抜け出して晴れやかな気持ちでまとめあげた作品だといえます。屈託のない素直なアメリカのサウンドは聴く者の気持ちも晴れ渡らせてくれます。

 ところでアメリカのアルバムが頭文字Hで始まる趣向はこの頃には完全に彼らも意識していたようです。私などはアメリカの音楽を聴くよりも早くその話を聞かされたものです。ロックがさまざまに分化する前のお話です。誰もがアメリカのことを知っていました。

Hearts / America (1975 Warner Bros.)