フランク・ザッパ先生の数あるアルバムの中でも高い人気を誇る「ホット・ラッツ」の全貌を明らかにするボックス・セットの登場です。ジャケットには記載がありませんが、プロジェクト/オブジェクト・シリーズの中でも待望の作品「ホット・ラッツ・セッションズ」です。

 なんとCD6枚組の超大作です。それぞれのCDは短くても68分ですから、収録時間は約7時間に及んでいます。一気に聴き通すのはなかなか時間的に厳しいですが、サウンドはどれも興味深いので、意外にそれほど長く感じるわけではありません。

 最初の4枚は「ベイシック・トラック・レコーディング・セッション」とされており、ハリウッドのTTGスタジオで行われたセッションの模様が収録されています。セッションは1969年7月18日の前哨戦を経て、7月28日から30日に行われました。

 このセッションにずっと参加しているのは先生の他にはイアン・アンダーウッドくらいで、ベースやドラムなどは何人も入れ替わっています。このセッション音源は同じ曲のテイク違いも多数収録されており、実に生々しいスタジオ・ドキュメンタリーの様相を呈しています。

 ここで収録されたベーシック・トラックは「ホット・ラッツ」収録の各楽曲へと編集されていったことに加えて、「バーント・ウィーニー・サンドウィッチ」や「チャンガの復讐」、「ウィーゼルズ・リップド・マイ・フレッシュ」などの収録曲の一部も構成しています。

 最終作品は8月にオーバーダブ・セッションが行われていますから、ここの音源がすべてを網羅しているわけではありません。どうせならそちらも収録すればよかったのではないかと少し思いました。ジャン・リュック・ポンティなどはそこだけの参加ですし。

 5枚目と6枚目は「フロム・ザ・ボールト」と題されており、「ホット・ラッツ」関連の今では入手困難ないし未発表の音源が収録されています。まずは1987年デジタル・リミックスが丸ごと収録されています。現在はオリジナル・ミックスに代わっているので貴重です。

 さらに「ホット・ラッツ」のプロモーション音源、「ピーチズ・エン・レガリア」や「リトル・アンブレラ」のシングル音源、1969年ミックスのアウトテイクやリズム・トラック・ミックスなど貴重な音源が目白押しです。先生のインタビューもほんの少しですが入っています。

 それによれば、「ホット・ラッツ」というタイトルは、先生がヨーロッパでアーチー・シェップを見た時にそのサックス・ソロが、まるで焼かれたネズミが悲鳴を上げてサックスから飛び出してきたように聴こえたからだということです。その曲が「いそしぎ」だと聞くとさらに面白いです。

 マニアの間ではこの音源がどのように編集されていったのか分析が盛んです。「ザ・ロスト・エピソード」などはライナーノーツの変更を迫られています。とはいえ、そんな分析をしなくてもこの頃の先生の演奏はとにかく気持ちがいいので、ぼーっと流していると幸せです。

 アルバムはLP大のケースにブックレット、豪華なすごろく、ギター・ピックが付録に付けられています。愛にあふれたライナーの数々とともに何とも素敵な作品です。先生とイアン・アンダーウッドによるエレクトリック室内楽はいくら聴いても飽きることがありません。

The Hot Rats Sessions / Frank Zappa (2019 Zappa)