イアン・デューリーのアルバムの中からどれか一つだけ選ぶのは結構難しいです。衝撃の「ニュー・ブーツ・アンド・パンティーズ」、きめきめの「ドゥ・イット・ユアセルフ」、バラエティに富んだ「ラーフター」とオリジナル・アルバムはどれもが代表作といえば代表作です。

 しかし、最大の問題はデューリーの名とともに真っ先に思い浮かぶ代表曲がそれらのアルバムには収録されていないことです。言うまでもなく、「セックス・ドラッグ・アンド・ロックンロール」と「ヒット・ミー・ウィズ・ザ・リズムスティック」です。

 パンク時代の余波を受けて、当時のイギリスの音楽界はシングルが隆盛を極めておりました。しかも、それをアルバムに収録しないというシングル盤を一つの作品として重視する方針です。12インチ・シングルの流行とも軌を一にしています。

 そんなわけで後から振り返る際には、本作品「ジュークボックス・デューリー」のようなシングル盤を編集したアルバムが重宝します。そうして、デューリーでこの一枚と言われると、このアルバムに手が伸びてしまいます。編集盤はあまり好きではない私ですらそうです。

 この作品はスティッフ・レコードに残した7枚のシングル盤をほぼ網羅した丁寧な編集盤です。「ほぼ」というのは7枚目のシングル「スーパーマンズ・ビッグ・ブラザー」が恐らくはタイトルのせいでシングルでない「イン・ビトゥイーニーズ」に差し替えられているからです。

 それにLP時代にはB面曲2曲がカットされていました。そこはCD化に際して無事に復活しましたけれども、件の「スーパーマンズ・ビッグ・シスター」は収録されないままです。まあさほどヒットしていませんし、アルバムに収録されていますから、それほど惜しくはないのですが。

 アルバムは全英9位となった「ホワット・ア・ウェイスト」で幕を開けます。時系列でもなく、地味目な曲を冒頭に持ってきたのはこれから始まるショーの盛り上がりを期待させる効果がありそうです。続けて「リーズン・トゥ・ビ・チアフル」、チャズ・ジャンケルの力が冴えます。

 デビュー曲にしてコンサートのアンコールの定番となった「セックス・ドラッグ・アンド・ロックンロール」はB面の1曲目に出てきます。パンク時代にどうなのよという気もするフレーズですが、キャッチーなことに変わりなく、見事にデューリーのすべてを表現しています。

 ロックのスーパースターが言うと古臭い感じがしますが、デューリーのような冴えないおっさんが言うと途端にリアリティがまします。別に満ち足りているわけではなさそうなところがいいです。「ユーア・モア・ザン・フェア」の猥褻の極みのような歌詞と呼応します。

 唯一の全英1位曲「ヒット・ミー・ウィズ・ザ・リズムスティック」も名曲です。これもジャンケルとの共作で重いリズムにからむサウンドがかっこいいです。この頃のデューリーはやはり最高です。ねっとりとしながら軽やかでファンキーなサウンドは凄味があります。

 子どもの頃にポリオを患って身体に麻痺が残るデューリーですが、それを個性としてロックンロール道を歩むデューリーの地べたを這うようなサウンドは、浮かれた若者に現実の深みと面白みを教えてくれます。不世出のロックンローラーでした。

Jukebox Dury / Ian Dury & The Blockheads (1981 Stiff)