冒頭の「スーパーマンズ・ビッグ・シスター」のサウンドにまずは驚きましょう。これまでイアン・デューリーのアルバムは1曲目に渋いファンキーなリズムの曲が置かれていたのですが、本作品「ラーフター」ではストリングス全開のゴージャスな曲となっています。

 イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズは前作「ドゥ・イット・ユアセルフ」で人気が絶頂に達しましたが、そういう時には事件が起こるものです。サウンドの要であったチャズ・ジャンケルが脱退してしまいました。ソロ・アーティストとしてのキャリアを追求するためでした。

 その後、ジャンケルの名を世界に知らしめたのはクインシー・ジョーンズが取り上げて世界的に大ヒットした「愛のコリーダ」の作者としてでした。パブ・ロックからクインシーですから、大きな振れ幅ですが、ジャンケルの異才ぶりを物語るお話です。

 驚いたのはジャンケルの後任です。パブ・ロックの雄ドクター・フィールグッドにいたあのウィルコ・ジョンソンが加入したのでした。この当時ジョンソンはソリッド・センダーズを解散させた頃で、引退状態にありました。音楽的には親和性が高いので驚くこともないのですが。

 デューリーとブロックヘッズは前作をサポートするツアーを精力的にこなした後、しばらく活動を休止しておりました。メンバー交代はその時期のことで、新作のリハーサルを開始する時にジョンソンを引っ張り込んだのだそうです。

 この頃のデューリーは酒や薬に溺れていたようで、新作の制作過程は必ずしも和気あいあいとしたものではなかったようです。とはいえ、ジャンケルが抜けた分、主要メンバー6人全員が作曲者としてクレジットされており、形の上ではずいぶん民主的です。

 本作品を聴くと、前作がチャズ・ジャンケルの色が濃かったということが分かります。もともとR&Bを基調にして、さまざまなジャンルの音楽をごった煮にしたサウンドが彼らの特徴でしたが、この作品ではもはや典型的なロックと呼べる曲はほとんどなくなりました。

 古いメキシコ民謡、カントリ調、似非ワールド・ミュージック風、トーキング・ブルースなどさまざまな要素がぶきぶきと詰まっています。だみ声で呟くようなデューリーのボーカルにこのサウンドですから、私はキャプテン・ビーフハートを思い浮かべました。

 物議をかもす歌詞の世界はついにアルバムの裏ジャケットに警告シールが貼られるまでになりました。シールはB面の曲紹介の上に貼られており、曲名が分からないという狼藉ぶりです。おそらく「ファッキング・エイダ」の曲名がひっかかったのでしょうが。

 この曲はストリングス全開のミュージカル調で始まり、「ワルチング・マチルダ」を彷彿させるコーラス♪ファッキング・エイダ♪が印象的です。これなども本作を代表する曲です。意表をついたゲストのドン・チェリーのトランペットが炸裂する名曲です。

 大そう面白いアルバムですが、前作の完成度と比べるととっ散らかった印象はぬぐえず、評論家の受けもセールスも不調に終わってしまいました。ウィルコ・ジョンソンの存在感が意外に薄かったこともこの不調に一役かったのかもしれません。面白い作品なのですが。

Laughter / Ian Dury & The Blockheads (1980 Stiff)