衝撃のジャケットに包まれて登場したイアン・デューリーの初ソロ・アルバム「ニュー・ブーツ・アンド・パンティーズ!!」です。作業服とセクシー下着を売る店という恐るべきコンセプトのお店の前に立つデューリー親子の写真は色調も最高で、とてつもなくパンクでした。

 しかし、この頃デューリーはすでに35歳です。若さに価値が置かれている業界では破格の年齢でした。サウンドもR&Bを下敷きにしたごった煮風ロックで、いわゆるパブ・ロックとして知られるサウンドでした。若さも立てノリリズムもありませんが、これはパンクです。

 デューリーは当初芸術家を目指しており、28歳の誕生日まではカンタベリー・アート・スクールで教鞭をとっていました。その頃からロンドンのパブやクラブで演奏するようになり、やがて伝説のキルバーン&ザ・ハイ・ロウズとしてデビューを飾ります。

 思うように成功を収めることができなかったハイ・ロウズはあえなく解散し、今度はイアン・デューリー&キルバーンズとして活動しますが、これもセックス・ピストルズとストラングラーズを前座に従えたライヴを最後に解散してしまいます。

 デューリーはキルバーンズで行動を共にしていた元ビザンチウムのチャズ・ジャンケル及び米国人のスティーヴ・ニュージェントと3人で1年をかけてみっちり曲作りに励み、40曲ものデモテープを制作します。これが本作品のもととなります。

 マネージャーが4000ポンドを出資してレコーディングされた本作品はパンクを代表するレーベルの一つスティッフ・レコードから発表されるや大いに人気を博しました。全英5位となり、ロングセラーを記録、「UKロック史上に残る名盤中の名盤」となったのでした。

 正式な結成は本作品発表後となりますが、演奏しているのはブロックヘッズの面々です。リーダーはもちろんデューリーですけれども、サウンドの要はチャズ・ジャンケルです。この二人を軸にノーマン・ワット・ロイのベースとチャーリー・チャールズのドラムという布陣です。

 アルバムは冒頭から名曲「ウェイク・アップ・アンド・メイク・ラヴ・ウィズ・ミー」で始まります。シンプルこの上ないファンキーなビートを背景にデューリーがどすのきいた低い声が卑猥な歌詞を呟くように歌います。まずこれでしびれます。

 一転して明るい「スウィート・ジーン・ヴィンセント」が続き、この辺りで完全に虜になってしまいます。R&Bを基調にした武骨なロックはパブ・ロックと言われる一群のバンドのサウンドを代表するものです。この命名は素晴らしく確かに英国のパブに似合うサウンドです。

 それもウェストエンドのお洒落パブではなくて、郊外の労働者階級のおっさんたちが集まるパブ。練り上げられた猥雑なサウンドがたまりません。パンクがロックを解放すると、おっさんたちまで元気を取り戻しました。それがとにかく渋い。

 英国ロック界にとても重要な位置を占めるイアン・デューリーの最高傑作とも言われる作品です。衝動のままにロックするのではなく、胸の中で転がして転がして熟成させ、何倍にも濃縮して放たれる曲の数々。これはとにかくかっこいいアルバムです。

New Boots And Panties!! / Ian Dury (1977 Stiff)