クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングは別格の存在でした。そもそも成り立ちからして成功したキャリアを積んだ有名ミュージシャンが集結したスーパーグループです。しかも、それぞれの前身バンドよりもCSN&Yの方が有名だという大成功例です。

 時代を代表するウッドストックにもオルタモントにも当然のように出演しており、1960年代末のロック界のメインストリームに位置しています。当時の西海岸を象徴する存在であって、何かにつけて引き合いに出されるバンドでした。一種のベンチマークです。

 ザ・バーズのデヴィッド・クロスビーとバッファロー・スプリングスフィールドのスティーヴン・スティルスにホリーズのグラハム・ナッシュが加わってCS&Nとなった後、ニール・ヤングが加わってクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング、CSN&Yとなりました。

 四人全員がギターとボーカルというスタイルは多くのアマチュア・ミュージシャンを歓喜させました。バンドを組むハードルが大きく下がりました。そんなところもCSN&Y人気の秘訣です。どれだけ多くのCSN&Yが学園祭に溢れたことか。

 本作品「デジャ・ヴ」はCSN&Yの実質的に唯一のスタジオ・アルバムです。当然のごとく全米1位の大ヒットとなり、これまでに世界で1000万枚をゆうに越える売上をたたき出しています。「ウッドストック」と「ティーチ・ユア・チルドレン」のシングルヒットも生みました。

 しかし、このアルバムは売上枚数以上に、1970年の西海岸を代表するアルバムとして大変評価が高い作品です。誰もおろそかにできない、そんな凄味が横溢しています。「デジャ・ヴ」を語る人々は常に真剣になってしまいます。

 アルバムはドラムにセッション・ミュージシャンのダラス・テイラー、ベースにはモータウン系のグレッグ・リーヴスを加えた6人組で制作されました。4人のフロントマンがいるバンドはこのアルバムに関する限り、民主的に運営されています。

 4人それぞれが作った曲が2曲ずつ、ジョニ・ミッチェルの曲とスティルスとヤングの共作が1曲という構成です。火花が散った末の民主制だと思われます。その代わり、基本はフォーク・ロックではありますが、各楽曲には作曲者の個性が激しく出ています。

 中でも最後に加わったヤングの曲は際立って特徴的です。時代を象徴する映画「いちご白書」に使われた「ヘルプレス」と5分あまりの組曲「カントリー・ガール」がそれです。そもそも彼は「僕は付け足しのようなものだった」と呑気に振り返っています。

 とはいえ、CS&Nの三人もそれぞれ個性的です。さわやかなコーラスで始まるスティルスの「キャリー・オン」、ジェリー・ガルシアがゲスト参加しているナッシュの「ティーチ・ユア・チルドレン」、ロック・テイスト溢れるスティルスの「カット・マイ・ヘア」。多彩です。

 一方で、アルバムには痛みのような感覚が貫かれています。これまたヒッピー文化の終焉を経験した時代を的確に反映しているのだろうと思います。個性豊かな楽曲がこうした感覚で貫かれる。やはりCSN&Yは時代を象徴する別格の存在なのでした。

Déjà Vu / Crosby, Stills, Nash & Young (1970 Atlantic)