アヴィアルはインドの最南端にあるケララ州出身のバンドです。バンド名は別名ケララ・カレーと呼ばれる地元の名物料理です。彼らはケララの言語マラヤラム語で歌っており、このセルフ・タイトルのアルバムはマラヤラム語で歌われる初めてのロック・アルバムと言われます。

 インドはそもそもロック・バンドの歴史が浅い上に、英語が準公用語ですから、ロックを演奏するバンドならばなおのことほとんどが英語で歌います。自分達の日常語でロックを歌うということに関しては、このアヴィアルが先駆者と言えると思います。

 かつて、日本でも「日本語でロックできるのか」と真剣に議論されていたことを思い出します。和製ロック黎明期には深刻な話でした。インドでの議論を聞いていて懐かしくなるのはそのせいです。しかもインドは多言語国家です。マラヤラム語とヒンディー語は通じません。

 アヴィアルは2003年に結成された5人組です。編成はボーカル、ギター、ベース、ドラムにキーボード&ターンテーブルというオルタナティブ・ロック編成です。バンド・メンバーはそれぞれが狭いロック社会での話ではありますが、結構なキャリアを積んだ連中でした。

 彼らは自分達の音楽のことをオルタナティブ・マラヤリ・ロックと呼んでいます。マラヤリは「マラヤラム語の」という意味です。インドではまだまだロック自体がオルタナティブな存在ですが、その中でも世界の趨勢にしたがってしっかりオルタナティブしているアヴィアルです。

 とはいえ、彼らのデビュー・アルバムである本作にもケララ州のフォーク・ソングをロックにアレンジした曲が含まれているなど、彼らのサウンドはケララの伝統音楽と正統派ロックをミックスしており、雑誌の評にあった「ココ・ロック」という言い方もしっくり来ます。

 アヴィアルは、2006年にこのアルバムの冒頭に収録されている「ナダ・ナダ」という曲のMVを発表すると、これがユーチューブを通じて大いに話題となりました。彼らはこの曲をもともとは英語で歌っていたそうですが、マラヤラムにして大正解でした。

 このアルバムが彼らのデビュー・アルバムになりますが、インディーズ作品の中ではかなり売れました。この頃、英国のプロデューサー、ジョン・レッキーがタレント・ハントのためにインドにやってきて、アヴィアルを一番気に入ったという話が残っています。

 レッキーは、インドのエッセンスも濃くて英語で歌わないところが良いとほめていますが、ボーカルの弱さも指摘しています。彼の前で演奏した際に音響に問題があったそうで、それを差し引いて考える必要もあります。彼もエスニックに目が行ってしまっていたのでしょう。

 アルバムを通してロックのエネルギーが充満しており、タイトなリズムに乗せて、轟音も繊細な音もどちらも出せるギターが鳴り響きます。フォークをアレンジした曲のみならず、オリジナル曲にもインド的な旋律が顔を出しつつもしっかりロックしています。

 バンドはセカンド・アルバムの準備もしていると当時語っていましたが、結局、今だにその約束は果たされていません。インドではロックで生き残るのは大変です。力のあるバンドだけに残念です。普通にギターを中心としたオルタナ・ロックとして質が高いのに。

Avial / Avial (2008 Phat Phish)