存在自体に大きなドラマを抱えたデビュー作品が結果的に成功を収めたことで、ビリー・ブラッグはツアーに明け暮れながらも早々にセカンド・アルバムを発表することができました。レーベルはデビュー作を拾ってくれたゴー・ディスクです。

 前作がわずか16分に満たない作品だったことから、まがりなりにも30分を超える本作品をもってデビュー・アルバムとする人もいるそうですが、つまらないことを言うものです。前作の圧倒的なデビュー作感を前にまことにもって無粋な話です。

 「ブルーイング・アップ・ウィズ・ビリー・ブラッグ」、ビリー・ブラッグとお茶?ビリー・ブラッグと悪事を企む?と題されたセカンド・アルバムはデビュー作に比べるとはるかに落ち着いた作品になりました。あっちの初々しさは薄れ、プロっぽくなりました。

 ビリーはクラッシュに影響を受けており、一人パンクならぬ一人クラッシュと呼ばれていました。前作のサウンドなどはまさに初期のクラッシュ的でしたが、この作品はむしろザ・スミス的です。ボートラでのジョニー・マーとの共演でそのことに気付かされました。

 ザ・スミスの曲をジョニーのギターと一緒にビリーが歌うとまるでモリッシーのようです。年代もぴったりですし、ビリーとザ・スミスの共通点を発見できたのは収穫でした。どこまでも英国的な湿り気を帯びたサウンドとリアルな歌詞、確かに共通項ありありです。

 本編も充実しています。前作ではエレキ・ギターの弾き語り一発勝負だったのに本作品ではほんの一部ですがオルガンとトランペットが登場します。ゲスト・ミュージシャンの起用です。それにギターやボーカルも重ねられているのではないかと思われます。

 そうでなくてもギター・ソロが登場していますから、一人パンクというよりも一人ニュー・ウェイブ、一人クラッシュというよりも一人スミスといった趣きです。ビリーの歌も格段に落ち着きを見せており、勢いだけではなく深みが増してきました。

 ビリーのアグレッシブな政治的メッセージを含む社会派ソングが多くなり、ビリーらしさも確立してきました。リアルな生活実態を離れないラブ・ソングとのバランスも絶妙で、全11曲、歌詞が溢れています。米国フォークのウディ・ガスリーに影響されたという話もうなずけます。

 社会派ソングの筆頭は冒頭の「イット・セッズ・ヒア」です。英国の悪名高いタブロイド紙を糾弾する内容で、英国在住当時「ザ・サン」を定期購読していた私としては複雑な気持ちながらその中身には同意せざるを得ません。総選挙をひっくり返したのも目の当たりにしましたし。

 本作品は英国では16位にあがる大ヒットを記録しました。当初は驚きをもって受け止められた一人パンクの演奏姿は徐々に人々の心をとらえ、ビリーは尊敬される地位を与えられます。ビリーはいつでも本気であることが人々の心をうったのだと思います。

 ボートラではやはりロンドンにあるビリーの自宅でのジョニー・マーとセッション3曲が光ります。それぞれジェームズ・ブラウン、ローリング・ストーンズ、ザ・スミスの曲で、ここでのビリーの楽しげな姿が彼の懐の深さを感じさせてこちらまで嬉しくなります。

Brewing Up With Billy Bragg / Billy Bragg (1984 Go! Discs)