ヴェイパラーという名前、パステル調のイルカのジャケット、「サッカリン・シナジー」というタイトル。もうこれはどこからどうみてもヴェイパーウェイヴです。ヴェイパラーことジェフ・カーディナルは2014年にデビューしたヴェイパーウェイヴのアーティストです。
 
 ジェフはジョージア州アセンズから出てきたアーティストです。アセンズといえばREMの出身地として名高いカレッジ・ロックのメッカです。そういう土地からこういうアーティストが出てくるというのは自然なことのような気がします。心が広い。

 ジェフはまたプラス100というレーベルを運営しており、自分の音源のみならずヴェイパーウェイヴ系のさまざまなアーティストの音源をレコードなどの形で積極的にリリースしています。入手困難作品が多いヴェイパーウェイヴの中ではとても良心的な人です。

 さらにジェフはライヴでも活躍しているそうです。コロナ禍で中断してしまいましたが、ヴェイパーウェイヴのライヴ・シーンは活性化していたそうで、早くコロナ禍が終息して、再びショーを開催できる日を心待ちにしているそうです。

 ライヴ?そうなんです、ヴェイパーウェイヴにもライヴがあるんですね。これは私のヴェイパーウェイヴ観に修正を加えなければなりません。みんなで楽しく聴く音楽ではない、とてもパーソナルなコミュニケーションが本質かと思っていました。

 本作品はヴェイパラーが2020年3月に発表した作品「サッカリン・シナジー」で、私が入手したのはCDです。典型的なヴェイパーウェイヴの衣装をまとって登場した作品ですけれども、本作品のサウンドはこれもヴェイパーウェイヴというのかとちょっと驚きました。

 突拍子もないサンプリングもありませんし、それをねじったりもしていません。全9曲を通してオリジナルのエレクトロニック・ミュージックが主体であるように見受けられます。普通にクラブでかかっていてもおかしくないのではないでしょうか。ここは自信ありませんが。

 ジェフにインタビューしたアンドリュー・ダリーも多ジャンルがクロスしていると評していて、そこにはクラシックなエレクトロニック・ミュージック、トリップ・ホップ、ブレイクコア、アシッド・ハウス、アンビエント、ジュークの要素が聴きとれるとしています。

 このインタビューの中でとても腑に落ちたのはジェフが最初に音楽に目覚めたのはゲームだという言葉です。なるほどテレビ・ゲームの音楽ですね。そう言われれば、本作品のサウンドがすんなりと耳に馴染んできます。いかにもゲームっぽい。

 うかつにもヴェイパーウェイヴのインスピレーションの一つがゲーム音楽だったことを失念していました。ゲームであれば、本作品のようにサルサであったり、ゴジラであったり、69個のゲームボーイが一緒に歌ったりしていてもおかしくありません。

 それほど高い機材を使わない、ちょっとレトロな感覚のエレクトロニック・ミュージックが新たなパッケージに包まれて提示されています。こうなると通常のクラブ・ミュージックとはやはり聴衆が違いそうです。この微妙な差異がとても面白く感じられるアルバムです。

参照:「An Interview with Jeff Cardinal AKA Vaperror」Andrew Daly (Welcome to vinyl Writer Music)

Saccharine Synergy / Vaperror (2020 100% Electronica)