「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」からほぼ1年、ようやくアップテンポ盤が発表されました。1964年2月12日のリンカーン・センターでのライヴの続編です。レーベルは一体どういうつもりだったんでしょう。前作が売れたから急きょ再編集して出したのか、予定通りなのか。
ともあれ、マイルス・デイヴィスが「まさに天井をぶっ飛ばしてしまいそうな勢いだった」とするこの夜のコンサートの熱っぽさが伝わるアルバムがようやく出ました。前作の内容がつまらないわけではありませんが、天井がぶっ飛ぶ感じではありませんでしたから。
アルバムの冒頭は「カインド・オブ・ブルー」の「ソー・ホワット」ですが、このスローな名曲が怒涛のアップテンポで奏でられます。曲に馴染みが深いほど速いテンポで演奏するというマイルス・クインテットの企みで、いきなりアルバムが天井をぶっ飛ばします。
この夜は「バンドには創造的な緊張感が漲っていた」とマイルスは語っています。このコンサートの前にはバンドとしての仕事は少し休みになっており、みんなが違うことを勝手にやっていたのだそうです。その創造的な休止が爆発につながったということでしょう。
しかし、もう一つの要因として、このコンサートがチャリティーだったがために、ギャラはすべて慈善団体に寄付することになっていたことが挙げられます。メンバーはコンサートの直前に聞かされたそうで、全員の頭に血が上っていたという事情です。
マイルスの持論でもあるようです。演奏者のネガティヴな感情が演奏の充実につながると信じて疑わなかったということです。バンド操縦術としてはありうるのかもしれませんが、メンバーはたまったものじゃないでしょう。若干パワハラっぽいですね。
アルバムは「ウォーキン」、「ジョシュア」、「フォー」、「セヴン・ステップ・トゥ・ヘヴン」、「ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラヴ」とお馴染みの曲が並んでいます。それがすべてアップテンポでぐりぐり演奏されていくわけで、前作とはかなり異なるテイストとなっています。
この作品で取りざたされるのはトニー・ウィリアムスのドラムです。特にベースとユニゾンを決めまくるシンバルさばきが驚嘆をもって受け止められています。最初から最後までずーっとなり続いているといってもよいくらいのシンバルです。
ロン・カーターのベースとハービー・ハンコックのピアノとトニーによるトリオのインターアクションが素晴らしく、それを無視するかのようなジョージ・コールマンのテナー・サックスがまた面白いです。マイルスのトランペットとは全然違うベクトルです。
アップテンポに圧倒されたのか、今度は観客の叫び声も入っていません。その面でも前作とはまるで異なる感じです。この夜のコンサートは一粒で二度おいしかったというわけです。マイルスのクインテットの魅力が炸裂した楽しいアルバムです。
蛇足ですが、途中で二度入る「ゴー・ゴー」と題されたMC付きのブリッジがかっこいいです。メイン楽曲の緊張感から完全に解放されたリラックスした1分半の演奏がとても素晴らしい。ちょっと猥雑なジャズの魅力を存分に発揮していると思います。
参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)
Four & More / Miles Davis (1966 Columbia)
ともあれ、マイルス・デイヴィスが「まさに天井をぶっ飛ばしてしまいそうな勢いだった」とするこの夜のコンサートの熱っぽさが伝わるアルバムがようやく出ました。前作の内容がつまらないわけではありませんが、天井がぶっ飛ぶ感じではありませんでしたから。
アルバムの冒頭は「カインド・オブ・ブルー」の「ソー・ホワット」ですが、このスローな名曲が怒涛のアップテンポで奏でられます。曲に馴染みが深いほど速いテンポで演奏するというマイルス・クインテットの企みで、いきなりアルバムが天井をぶっ飛ばします。
この夜は「バンドには創造的な緊張感が漲っていた」とマイルスは語っています。このコンサートの前にはバンドとしての仕事は少し休みになっており、みんなが違うことを勝手にやっていたのだそうです。その創造的な休止が爆発につながったということでしょう。
しかし、もう一つの要因として、このコンサートがチャリティーだったがために、ギャラはすべて慈善団体に寄付することになっていたことが挙げられます。メンバーはコンサートの直前に聞かされたそうで、全員の頭に血が上っていたという事情です。
マイルスの持論でもあるようです。演奏者のネガティヴな感情が演奏の充実につながると信じて疑わなかったということです。バンド操縦術としてはありうるのかもしれませんが、メンバーはたまったものじゃないでしょう。若干パワハラっぽいですね。
アルバムは「ウォーキン」、「ジョシュア」、「フォー」、「セヴン・ステップ・トゥ・ヘヴン」、「ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラヴ」とお馴染みの曲が並んでいます。それがすべてアップテンポでぐりぐり演奏されていくわけで、前作とはかなり異なるテイストとなっています。
この作品で取りざたされるのはトニー・ウィリアムスのドラムです。特にベースとユニゾンを決めまくるシンバルさばきが驚嘆をもって受け止められています。最初から最後までずーっとなり続いているといってもよいくらいのシンバルです。
ロン・カーターのベースとハービー・ハンコックのピアノとトニーによるトリオのインターアクションが素晴らしく、それを無視するかのようなジョージ・コールマンのテナー・サックスがまた面白いです。マイルスのトランペットとは全然違うベクトルです。
アップテンポに圧倒されたのか、今度は観客の叫び声も入っていません。その面でも前作とはまるで異なる感じです。この夜のコンサートは一粒で二度おいしかったというわけです。マイルスのクインテットの魅力が炸裂した楽しいアルバムです。
蛇足ですが、途中で二度入る「ゴー・ゴー」と題されたMC付きのブリッジがかっこいいです。メイン楽曲の緊張感から完全に解放されたリラックスした1分半の演奏がとても素晴らしい。ちょっと猥雑なジャズの魅力を存分に発揮していると思います。
参照:「マイルス・デイヴィス自伝」中山康樹訳(シンコー・ミュージック)
Four & More / Miles Davis (1966 Columbia)