またしても「『461オーシャン・ブールヴァード』以上の傑作」という安直なコピーがつけられたエリック・クラプトンの4作目のソロ・アルバムです。今回はこれまでとは少し趣向が異なります。そうです。ザ・バンドとボブ・ディランの参加です。

 クラプトンのザ・バンド好きは有名で、「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」はクラプトンの人生を変えたアルバムだと言ってますし、「ザ・バンドのメンバーになりたくて仕方なかった」と発言したりもしています。デラニー&ボニー趣味からの真打ち登場です。

 また、クラプトンはボブ・ディランの「欲望」のレコーディング・セッションに参加していますし、「天国への扉」のカバー・シングルを本作品の前年に発表しています。イギリスのミュージシャンにとってディランとザ・バンドはアメリカそのものです。

 どのような経緯か定かではありませんが、本作品はザ・バンドがもっているカリフォルニアのマリブにあるシャングリラ・スタジオで制作されました。第一次エリック・クラプトン・バンドの面々に豪華なゲスト陣が加わって数か月にわたってセッションが行われています。

 ここで録音された曲は30曲とも35曲とも言われています。中にはクラプトンのカムバックを支えたザ・フーのピート・タウンゼントや、ヴァン・モリソンが加わった曲もあるそうなのですが、残念ながらお蔵入りになっています。まるでディランとザ・バンドの「地下室」ですね。

 また、クラプトンの所属するRSOがアトランティックともめたことから、プロデューサーにはトム・ダウドを起用することができませんでした。結果的にディランとザ・バンドの「プラネット・ウェイヴス」を手掛けたロス・フラボニがプロデュースを担当しています。ちょっと残念です。

 それはともかく、本作品にはザ・バンドの5人が全面的にかかわっています。まず冒頭の「ビューティフル・シング」からしてリチャード・マニュエルとリック・ダンコの曲です。ザ・バンドであることを隠そうともしない曲で、クラプトンも気持ちよさそうに歌っています。

 リック・ダンコは「オール・アワ・パスト・タイムズ」も作曲しており、これもザ・バンドらしいそこはかとないディープ・アメリカンな曲です。さらにディランも「サイン・ランゲージ」を提供し、クラプトンとデュエットするなどしています。ロビー・ロバートソンのギターも光る曲です。

 さらにロン・ウッドやジョージー・フェイム、ビリー・プレストンなど脈絡がなさそうでありそうなゲストも参加しており、この一大レコーディング・セッションの初心に帰ったかのような大らかで楽しげな様子が偲ばれます。レイド・バックした渋いロックが生まれるのも分かります。

 オーティス・ラッシュのブルース「ダブル・トラブル」の力強さ、「ブラック・サマー・レイン」の美しさ、「イノセント・タイムズ」と「ハングリィ」での、後にマルセラ・デトロイトとして活躍するマーシー・レヴィによる迫力のボーカルと聴きどころが満載です。

 クラプトンのボーカルもその魅力を確立しており、ギター・プレイもとことんリラックスしていてカッコいいです。残念ながら売上では「461オーシャン・ブールヴァード」には及びませんでしたが、レゲエからアメリカン趣味に回帰したクラプトンの傑作の一つでしょう。

No Reason To Cry / Eric Clapton (1976 RSO)