ロイ・オービソンといえば「おお、プリティ・ウーマン」です。何ともシンプルな前奏に導かれて始まる美しい歌声で歌われる稀代の名曲です。1964年にアニマルズの「朝日のあたる家」を押しのけて全米1位に輝いた、400万枚を超える大ヒット曲です。

 オービソンはエルヴィスで有名なサン・レコードを始め、さまざまなレーベルを渡り歩いた後、弱小なモニュメント・レコードにしばらく落ち着き、ここでようやくヒットを連発するようになります。ブレイク作が「オンリー・ザ・ロンリー」で全米2位のミリオン・セラーです。

 以降、快調にヒットを飛ばす人気者となり、「おお、プリティ・ウーマン」で頂点を極めました。しかし、その後、その人気に陰りが見えると、最愛の妻、そして子どもを相次いで事故で亡くすという悲劇に見舞われ、6年半もの間、ほとんど表舞台から消えてしまいました。

 しかし、1974年に久しぶりにレコーディングを再開すると、地道な活動を続け、1987年にロックンロールの殿堂入りを果たします。ここでブルース・スプリングスティーンと共に「おお、プリティ・ウーマン」を歌ったことから再び注目を集めます。

 その後、ボブ・ディラン、ジョージ・ハリスンらとトラベリング・ウィルベリーズを結成するなど、再び活動を活発化させますが、1988年にあっけなく心臓発作で帰らぬ人となってしまいました。享年52歳とこの長いキャリアに比べるといかにも若い。

 彼の死後、1990年には映画「プリティ・ウーマン」の主題歌に「おお、プリティ・ウーマン」が起用されてリバイバル・ヒットいたします。この時代を超えた名曲のおかげで、私はオービソンがいつの時代の人なのかよく分からないままこのアルバムにたどり着いてしまいました。

 本作品は彼の黄金期であるモニュメント・レコード時代に、「おお、プリティ・ウーマン」」をフィーチャーした作品として発表されたアルバムで、なんと日本国内では初CD化となります。もちろんシングルやベスト盤として同曲は国内発売されていましたが、アルバムは初です。

 この作品は「おお、プリティ・ウーマン」に加え、「グッドナイト」や「ユー・アー・マイ・ガール」、などのシングル・ヒット曲の他、カバー曲を何曲か収録して構成されています。1965年現在のアメリカン・ポップスを楽しめるアルバムです。

 1965年といえば、オービソンの初海外ツアーでは前座を務めたビートルズが音楽の世界を一変させた後で、アメリカ勢はすっかり影が薄くなっていました。変わらず活躍していた一人がオービソンで、「おお、プリティ・ウーマン」の大ヒットはそれだけ貴重なものでした。

 確かに何度聴いても「おお、プリティ・ウーマン」は名曲です。演奏だけならもろに1960年代の音のはずなのですが、オービソンの声がタイムレスなものですから曲全体を不滅のものにしています。スプリングスティーンがオービソンのように歌いたいというのもうなずけます。

 アルバムではこの名曲が突出しており、他の曲が霞んでしまっています。むしろ「おお、プリティ・ウーマン」なしでまとめてもよかったかもしれません。1965年のアメリカン・ポップスの標準的なアルバムとして楽しめます。なんたってオービソンが歌っているんですから。

Orbisongs / Roy Orbison (1965 Monument)