「461オーシャン・ブールヴァード」と「いとしのレイラ」を「はるかに凌ぐ最新作」と日本発売時の帯には書かれています。当時から両者を凌ぐという評価ではありませんでしたし、レーベル側の姿勢は安直のそしりを免れないでしょう。もう少し考えるべきでした。

 ついでに言えば邦題の「安息の地を求めて」というのもまるで意味が分かりません。原題とはまったく関係がありませんし、曲名でもありません。「ジーザス・カミング・スーン」や「心の平静」など収録曲の歌詞からかすかに滲んでくる程度です。

 それはさておき、エリック・クラプトンは前作のツアーの一環として初来日公演を行いました。待望久しい来日公演ということで、彼がギターを弾く姿は後光が差していたのを見た人が多いようです。本作品はその来日公演の前にはレコーディングを終えていました。

 レコーディング・メンバーは来日メンバーと同じですし、クラプトンの後光の余韻を楽しむには格好のアルバムだったと思います。とはいえ、それにしては地味なアルバムでした。レコード会社が一生懸命あおりたくなる気持ちも分からないではありません。

 クラプトンは「アイ・ショット・ザ・シェリフ」の大ヒットに気をよくしたのか、本作品をジャマイカで録音することにしました。プロデューサーには前作同様トム・ダウドを起用し、メンバーもほとんど前作と変わりません。安定の第一期エリック・クラプトン・バンドです。

 せっかくのジャマイカ録音ですけれども、ジャマイカのミュージシャンは参加していません。実際にはそうしたセッションは行われていて、ピーター・トッシュが加わった曲が後に陽の目をみています。本作品に収録されなかったのはいろいろな事情があるのでしょうね。

 本作品の中で、シングル・カットされた「揺れるチャリオット」から「小さなレイチェル」、「アイ・ショット・ザ・シェリフ」へのアンサー・ソング「ドント・ブレイム・ミー」へと続く3曲が典型的なレゲエ・スタイルで録音されています。ただしいずれもジャマイカの曲ではありません。

 「揺れるチャリオット」は黒人霊歌、「小さなレイチェル」はスワンプ・ロック、「ドント・ブレイム・ミー」はオリジナルです。ここでのレゲエ・スタイルはいわゆるルーツ・レゲエに近いのほほんとした感じがいいです。どんどん革新的なスタイルになっていくレゲエとは一線を画します。

 こうしたレゲエ・スタイルが目立ちはするものの、アルバム全体はブルースに根差したクラプトン本来のサウンド色が強いです。デレク・アンド・ザ・ドミノス用の曲がリメイクされていたり、エルモア・ジェイムズの曲がカバーされていたり。

 クラプトンのボーカルはどんどんこなれてきて、ようやく後の活躍しか知らない人でもクラプトンだと分かるようになってきました。ギターの方も落ち着いてきて、安心して堪能できます。その意味では「安息の地を求めて」たどり着いたような気がしないではありません。

 とはいえ実際にはクラプトンの状況は落ち着いていたわけではなさそうで、いろいろと大変だったようです。愛犬ブラッキーの何とも言えない表情はクラプトンの状況を表しているのかもしれません。アルバムの落ち着いたサウンドには似合わないジャケットです。

There's One In Every Crowd / Eric Clapton (1975 RSO)