「サンタナ『ロータスの伝説』に続く『日本が世界へ誇る音楽遺産』」、「70年代のLIVE IN JAPANの金字塔」がこのマウンテンの「異邦の薫り(ライヴ・イン・ジャパン)」です。当時の日本の録音技術の粋を集めた2枚組作品です。

 本作品は1973年8月30日に大阪厚生年金会館で行われたマウンテンの来日公演の模様を収録したアルバムです。1回のステージをそのまま収めたストレートなライヴ・アルバムですから、当時の公演を追体験しやすい仕様です。一発勝負。

 マウンテンは1972年には一旦解散しており、ギター&ボーカルのレスリー・ウェストとドラムのコーキー・レインは、あろうことかジャック・ブルースと組んで「ウェスト、ブルース&レイン」を結成し、2枚のスタジオ・アルバムを制作してそこそこ成功を収めます。

 このバンドは1973年8月に日本公演を行う予定でしたが、それを前にあえなく解散してしまいます。そこに声をかけたのがフェリックス・パッパラルディで、ウェストを説得して、マウンテンは日本公演のために再結成します。その結果がこのアルバムということになります。

 しかし、オリジナル・メンバーのキーボード奏者スティーヴ・ナイトはロックを辞めてジャズに戻っており不参加、レインもパッパラルディ夫人ともめて不参加、パッパラルディはドラムにアラン・シュワルツバーグ、ギターとキーボードにボブ・マンをリクルートしました。

 アランは数多くのロックの名盤に参加することになる名ドラマーですが、この頃はまだジャズあがりで、ようやくロック界でも引っ張りだこになってきた頃でしょうか。ボブ・マンもさまざまなセッションをこなすギタリストで、ランディ・ブレッカーのバンド、ドリームズにも在籍しています。

 ともあれ、その急造マウンテンは日本の地を踏みました。当初から構想されていたライヴ・アルバムが本作品で、その原題は「ツイン・ピークス」、伝説のテレビ・ドラマとは時代的に無関係で、ウェストとパッパラルディの双頭バンドであることを示していると思われます。

 ライヴはデビュー作から3曲、ナンタケから2曲、「悪の華」から1曲、ウェストのソロ・デビュー作から1曲、ウェストのギター・ソロ、カバー曲が1曲という構成です。ウェストは新しい曲がやりたかったそうですが、そこは再結成ですから、なかなかそうはいきません。

 アルバムで目立つのは何といっても「ナンタケット・スレイライド」です。全部で32分もある長尺の演奏です。バンドにもう一人のギタリストを入れたのは慧眼で、ギターを中心に据えた演奏はかっこいいです。当時のことを思い出すと「ありがたい」という言葉が似あいます。

 この演奏の途中でベースによる「さくらさくら」が出てきます。ウェストのギター・ソロでは「ジングル・ベル」ですから、さすがはパッパラルディ、サービス精神旺盛です。奥さんもジャケットに鶴を描いてサービスしてくれています。「暗黒への旅路」がないのが玉に瑕ですが。

 ウェストのギターが大活躍するライヴですけれども、全体の評判は芳しくなく、全米100位にも入りませんでしたし、評論家受けも最悪でした。確かに最高の演奏というわけではないでしょうが、十分に楽しいですし、何よりもギターがありがたいです。世界へ誇る音楽遺産です。

Twin Peaks / Mountain (1974 Windfall )