「ユア・ビューティフル」です。唐突に世界中で大ヒットしました。英米を始め11か国でヒットチャートを制する特大ヒットで、ここ日本でもTVCMなどを含め、さまざまなメディアからひっきりなしに流れてきました。時代を代表する名曲です。

 この曲はジェイムス・ブラントのデビュー作である本作「バック・トゥ・ベッドラム」からのシングル・カット曲ですが、最初にカットされたわけではなく、何と「ハイ」、「ワイズメン」に続く3枚目です。まさかこれほど売れるとは思っていなかったのでしょう。

 そのことは歌詞を聴けば分かります。この毒気のない美しいバラードなのに、♪フ○ッキン・ハイ♪と叫ぶんですから。初めて聴いた時には「やっちまったな」と思ったものです。案の定、後にテレビなどで歌う時には♪フライング・ハイ♪としていましたね。

 ジェイムス・ブラントは比較的音楽の世界に入ったのが遅い人です。本格的に音楽活動を始めたのはイギリス陸軍を除隊した2002年からということで、この時にブラントは28歳くらいです。陸軍ではキャプテン、大尉にまで昇格したといいますから本格的な軍人です。

 ブラントを紹介する時には必ず元軍人のキャリアに言及されます。細マッチョをアピールするためかと一瞬思いましたが、笑い事ではありませんでした。実際にブラントはNATOの平和維持部隊で紛争最中のコソボでの活動に従事しています。

 「ユア・ビューティフル」はコソボで書かれたそうです。本作品には「ノー・ブレイヴリー」という戦争を描いた曲もあります。やはり戦争体験というものは重いものです。そういう極限下であの優しい名曲が書かれたかと思うと俄然見方が変わります。

 本アルバムは「ユア・ビューティフル」に引きずられて、英国だけで300万枚を越す売り上げを誇る特大ヒットになりました。米国では2位どまりでしたが、やはり300万枚を売っており、さらに他の欧米諸国でも軒並み1位を記録しています。

 シンガーソングライターのデビュー作としては異例の大ヒットとなったわけです。ヒットしたのみならず意外なことに評論家筋からも評価が高い。何のけれんみもなく、ストレートに正面からポップな曲をギター片手に歌うスタイルがなぜか新しかったんです。

 今世紀最高のラヴソングともいわれた「ユア・ビューティフル」があるので一発屋疑惑がかけられたブラントですが、後のアルバムもちゃんとヒットさせていますし、何より本作品でも素晴らしい曲が多く、けして一発屋ではありません。

 本人の意識からしてもなぜ「ユア・ビューティフル」ばかりというのがあるようです。私は「グッバイ・マイ・ラヴァー」から「ソー・ロング・ジミー」に至る数曲の流れが好きです。ブラントのハスキーな声が切々と訴えかけてきます。

 演奏陣もシンプルで、正面からメロディーと格闘する王道ポップスです。その意味では新しくも懐かしい。時が経ても逆に古びないスタイルです。「ユア・ビューティフル」などは揶揄されることが多いですが、それだけ人々の気になるということです。名盤に間違いないでしょう。

Back To Bedlam / James Blunt (2004 Atlantic)