最高傑作とも言われる「ナンタケ」から10か月、同じ1971年に発表されたマウンテンの3作目のアルバム「悪の華」です。この当時は年に2枚くらい余裕ですから、とりたててマウンテンが多作というわけでもありません。ノリに乗っていたということでしょう。

 今回はジャケットの印象が大きく変わりました。デザインはこれまでどうようにゲイル・コリンズなのでどうしたことかと思いきや、「マウンテン」のイラスト文字はそれまでの路線を引き継いでいます。やはり継続性は大事です。心憎い演出です。

 ままありがちなコンセプトですが、本作品はA面がスタジオ録音、B面がライヴ録音というスプリット・アルバムになっています。しばしば比較されるクリームの「クリームの素晴らしき世界」が念頭にあったことは間違いありません。

 スタジオ・サイドではまずタイトル曲「悪の華」が登場します。バンドの代表曲の一つともなった曲です。短いインストゥルメンタル曲「王様のコラール」をはさんで、「最後の冷たいキス」、「クロスローダー」、「誇りと情熱」の3曲が続きます。

 「悪の華」こそレスリー・ウェストがボーカルをとっていますけれども、残りのボーカル曲3曲はいずれもフェリックス・パッパラルディとゲイル・コリンズ夫妻による曲で、ボーカルもパッパラルディがとっています。ウェストのギターは活躍していますけれども。

 「王様のコラール」はスティーヴ・ナイトのピアノが大活躍しています。スティーヴはもともとはジャズ畑のキーボード奏者で、パッパラルディに気に入られてのマウンテン参加ですから、ウェストよりもパッパラルディに近いです。バンド内の危ういバランスを象徴しています。

 このスタジオ・サイドはギターばりばりのロック・スタイルというよりも、プログレ的な要素が強く出てきています。パッパラルディ色が濃くなってきているということです。ブルース色濃い「クロスローダー」もパッパラルディが歌うとさらっとしてきます。

 ライヴ・サイドは1971年6月のニューヨーク、フィルモア・イーストでのライヴを収録しています。全体で29分近くとLPのほぼ限界に近い長さだったがために、ジャケットには音量を少し絞っているとの注意書きが書かれています。気合が入っています。

 大そうを占めるのは25分にも及ぶメドレー「幻想の世界」です。ウェストのギター・ソロ、チャック・ベリーの「ベートーヴェンをぶっ飛ばせ」、「ミルクとハチミツの夢」、「バリエイションズ」、「白鳥のテーマ」と異質な曲をつなげた白熱のライヴと言えます。

 最後は代表曲「ミシシッピー・クイーン」で締めくくるこのアルバムは、米国では35位どまりと残念な結果になってしまいましたが、英国ではブライテスト・ホープに選ばれ、日本では6位にまで上がる最大のヒットとなりました。このあたりのちぐはぐ感が何とも言えません。

 結局、このアルバムは四人の最後のアルバムになってしまいました。ギター・ヒーロー、レスリー・ウェストと音大で学んだパッパラルディの危ういバランスはやはり奇跡だったようです。本作はそれがぎりぎり保たれているという意味でとても面白いアルバムです。

Flowers Of Evil / Mountain (1971 Windfall)