「H」の次は「Hm」ときました。サックスに「転向」した立花ハジメの音響デザイン作品第二弾です。コードになぞらえていて、しっかり「Hマイナー」と呼びます。いつもいつもまことにセンスのいい人です。さすがは立花ハジメ。

 本作品は前作に比べてよりサックス色が濃くなりました。立花自身もアルトに加えてソプラノ・サックスを吹いており、ギターの文字は消えました。前作に引き続いてロビン・トンプソンも参加しており、ソプラノ・サックスとバス・クラリネットを吹いています。

 本作ではさらに沢村満、矢口博康の二人がサックスで加わり、四人のサックスによるアンサンブルが前面に出てきています。沢村はYENレーベルのバンド、インテリアに所属していた人で、立花とはB-2ユニッツにて一緒に活動していました。

 このB-2ユニッツは、坂本龍一が「YMOではできないこと」を目指して結成したリーダー・バンドで、立花と沢村の他に永田どんべい、鈴木さえこ、ロビン・トンプソンが参加しています。何のことはない、坂本を除く全員がこのアルバムと重なっています。

 「B-2ユニット」は1980年に発表された坂本龍一のソロ作で、その名をとったバンドです。本作品収録の「アレンジメント」はB-2ユニッツでも演奏されていた楽曲ですし、「ピアノ・ピロウズ」もアブストラクトになる前に同ユニッツが演奏しています。

 矢口博康はリアルフィッシュにいたサックス奏者で、ニュー・ウェイブ系の人ですが、サザンオールスターズなどのアルバムにも参加しているそうです。また、キーボードで参加の近藤達郎はチャクラなどで活躍したのち、現在に至るまで息の長い活動を続けています。

 立花はアルプス1号の後も精力的に自作楽器の制作に打込んでいますが、このアルバムにはクレジットがまるでありません。そのこともよりサックスによるアンサンブル主体のアルバムであることを示しているようです。サックス、サックスしたアルバムです。

 今回はジャケットがカラフルになりました。赤いスーツが鮮烈な印象を与えます。煙草をくわえた立花ハジメの写真はまるで映画の一場面のようです。前作のモノクローム未来派とは随分趣向が違います。その違いはサウンドにも表れているように思います。

 前作は純粋にサウンドを構築してアブストラクトな世界を構築していました。しかし、同じく全編インストゥルメンタルな本作品はまるで映画のサウンドトラックのように思われる場面が随所に出てきます。人肌の温もりのようなものを感じます。

 「アレンジメント」などは典型的で、現代音楽というよりもロックを感じる楽曲になっています。その分、本作品はとても聴きやすくなっており、前作とは異なる魅力を放っています。立花のサックスに対する熱い思いはここまできたかと感動します。

 なお、「AB1013」なる曲の作者アンネローズ・バックラーズなるドイツの女優さんが気になります。ディーヴォのアルバムにも参加しているようですし、一体何者なんでしょう。やけにくっきりしたメロディーの日本的な曲です。なかなか謎の多いアルバムです。

Hm / Hajime Tachibana (1983 Yen)