ゆらゆら帝国の結果的に最後のアルバムとなった11作目のアルバム「空洞です」です。発表は2007年10月のことです。なお、手元にあるのはその2年後に米国のレーベルDFAから発売されたもので、2007年4月のシングル「美しい」をカップリングしています。

 ボーカルとギターの坂本慎太郎によると、本作品は「空洞を目指した」ということです。そして「今回はアルバム単位の存在感みたいなものを考えて、そこを外さないようにしようと」、「徹底的に意識して、作品に統一感を持たせようと思ったんです」。

 なるほど、前作に比べてもアルバムの統一感は半端ないです。サックスが入る曲があったりするのですが、サウンド自体は全体に同じような雰囲気で統一されており、究極のコンセプト・アルバムと言われるのも分かります。

 「演奏に関しては、ひたすら、とりとめのない感じを目指したっていうか。」という通りのサウンドです。もともとゆらゆらぐずぐずした感じのサウンドが持ち味でしたが、ここまで全体にそれが透徹している作品はなかったと思います。

 ボーカルも「肉体性をあんまり出さないようにしようってことで、薄く引き伸ばしたような人工的な感じにしてあ」ります。ねっとりと巻き込んでいくようないつもの声はさらりと録音されています。この人は自然に歌ってもこうなんだとそこがまた感動ポイントになったりしています。

 そういう意味で、最初の「おはようまだやろう」から最後の「空洞です」まで本当に一気通貫です。シングル発表された「美しい」と「なんとなく夢を」はアルバム・バージョンとなっており、これもアルバムの中に埋め込まれて一気通貫に連なっています。

 ゆらゆらするトレモロ・ギターのサウンドと、ブラスバンドの太鼓のようなドラム、ぶんぶんなるわけでもない曖昧なベースの三者が織りなすサウンドは確かにどこか虚ろです。しかし、その虚ろが空間に充満している、そんな感覚です。

 曖昧に流れていくサウンドは、前作に比べてもなぜかポップです。そのためでしょう、タイトル曲は映画の主題歌にもなった上に、なんとキリンのチューハイのテレビCMに使われています。映画の主題歌はともかく、テレビCMとは世の中変わったもんです。

 坂本はこのアルバムと「その後のライブツアーで、我々は、はっきりとバンドが過去最高に充実した状態、完成度にあると感じました」とし、「完成とはまた、終わりをも意味していたようです」とメッセージを発表し、2010年3月末でバンドを解散することを告げました。

 解散理由は「結局、『空洞です』の先にあるものを見つけられなかったということに尽きる」とメッセージの中で説明しています。彼らの目指した「日本語の響きとビート感を活かした日本独自のロックを追求する」コンセプトは本作品で完成したのでしょう。

 それほどの自信作が「空洞です」です。虚ろな空間をご神体としてきた日本の古代からの感覚を日本語ロックの世界で表現したのがこの作品なのでしょう。一部に使われている尺八が虚ろを強調しています。そんなコンセプトを考えさせる素晴らしい作品です。

参照:「『空っぽの感覚』に心惹かれてしまうロック作ーーゆらゆら帝国が新作を語る」望月哲(CDJ) 

Hollow Me / Beautiful / Yura Yura Teikoku (2007 ソニー)