ドイツのパフォーマンス集団ディー・テートリッヒェ・ドーリスの34年ぶりの新録音アルバムです。彼らは日本ではグループ名の日本語版「致死量ドーリス」として知られていますから、その名前は耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

 タイトルは「特徴的なアレ:再現(I)」とされています。「特徴的なアレ」は1981年、といいますから活動の最初期に発表されたカセットテープ作品のタイトルです。グループの中心人物ヴォルフガング・ミュラーがその作品に思いを馳せて作ったのがこの作品です。

 とりわけ、その作品のブックレットの表紙イラストが自問の種になっていたようです。それは性器のようでもあり、ディルドのようでもある簡単な線画です。ミュラーは「天才的ディレッタント」という著作が有名であり、ディレッタントとディルドの親近性が意識に上ったようです。


 そんな背景が説明されている通り、というか何というか、本作品は31種類のディルド、張形、バイブレーターのサウンドを録音したものです。楽器として使っているというわけではなく、31種類のバイブレーターが唸る音を順番に淡々と拾っていて、加工はありません。

 メンバーとしてクレジットされているのは、発案者のミュラー、各バイブレーターのスイッチを入れた文化学者のカトリン・ケンプ、それぞれのイラストを描いた最初期のバンド・メンバー、タベーア・ブルーメンシャインの3人と31種類のバイブレーターたちです。

 録音技師はノイズ・スペシャリストのフリーダー・ブッツマンで、サウンドは彼のスタジオで録音されました。大変繊細な作業だったことと思います。最近のディルドは空気タイプといってエア・プレッシャーによる振動を使ったものもありますから、録音も大変です。

 この作品は2019年3月にLPで発表されていますが、手元にあるのは12月に日本のスエザン・スタジオから発売された豪華ボックス仕様のCDです。封入されているのはメンバー31人それぞれについてタベーアによるイラストとケンプによる使用評価を記載したカード。

 このカードが何とも素敵です。色鉛筆で描かれたと思われるポップなイラストはまるで絵葉書のようですし、ケンプの文章もユーモラスで楽しい。もともとこの評価は雑誌に彼女が連載していたものだそうです。それに何よりも各メンバーの多彩さに驚かされます。

 「シリ2」は音声に反応するそうですし、ネット連動型や振動パターンをプログラムできるタイプも多いです。空気圧型もあれば掃除機の吸い口につけるタイプのものもありますし、あひるの形状や口紅型などさまざまな外観のものもある。

 笑ったのは「モーターヘッド・オーヴァーキル・バイブレーター」です。解説は「レミーのベースボックスの上に座りたがっていたモーターヘッド・ファン向き」と締めくくられています。世界各国から集められた精鋭たちの祭典の趣きがあります。

 サウンドはさすがに静かです。どれ一つとして同じ振動音はなく、多彩なサウンドに驚かされます。コンセプト云々よりも、単に音として面白いです。ありそうでなかったアルバムは究極の環境音であり、インダストリアル・サウンドです。ボーっとしたい時に最適な作品です。

Das Typische Ding Reenactment (I) / Die Tödliche Doris (2019 Suezan Studio)

サウンドは見つからないので代わりにこれを!