和久井光司の名前を見かけるようになったのはいつの頃だったか記憶が定かではありません。大鷹俊一などとともに、中村とうよう、渋谷陽一、阿木譲の御三家に続く世代のロック評論家としていつの間にか頻繁にその名を目にするようになっていました。

 その和久井がスクリーンの中心人物だと知った時にはいささか驚きました。考えてみれば驚くことでもないのですが、当時のインディーズ・バンドから音楽評論家が誕生するとはなぜか不意を突かれたような気になったものでした。逆はいかにもありそうなんですけどね。

 この作品はスクリーンが自身のレーベル、スマート・ルッキンから発表したデビュー・アルバム「ペルソナ/仮面」です。手元にあるのは同じく和久井のレーベル、フライング・ダッコチャンから紙ジャケで再発されたバージョンです。

 評論家らしく、再発のライナーノーツには自身で「スクリーン物語」を執筆して、スクリーンの歴史と本作品の制作に至る過程が克明に記されています。それによれば、スクリーンは「横浜市立中田中学校を卒業した4人のメンバーを中心に結成されたバンド」です。

 スクリーンは当初から自主レーベルを作ってレコードをリリースすることを目標に、その非凡なプロデュース力を発揮して、バンド結成から1年もたたないうちにレーベルを起こし、早々にデビュー・シングルを発表しました。1981年4月の「デカダンス」です。

 この作品は同じ年の11月には発表されています。恐るべき行動力です。残念ながら私は「デカダンス」は買いましたけれども、このアルバムは逃してしまいました。当時のインディーズの水準からすれば圧倒的に豪華なジャケットに怖気づいたのでした。

 ジャケット同様、当時からスクリーンのインディーズらしからぬプロっぽいサウンドは際立っていました。とはいえ、金にあかして豪華なスタジオを使用したということではなく、頑張って機材を集めて、間に合わせのスタジオで音録りをしています。

 それでもこれだけのサウンドを聴かせるのですから大したものです。再発にあたり「デジタル・リマスターによってオリジナル・アナログ盤を超えるものとして蘇ったサウンド」だからなおさらかもしれませんが、当時も十分音質が良いなあと思った記憶があります。

 本作収録の曲は、トーキング・ヘッズやモノクローム・セット、ジョイ・ディヴィジョンなどを意識していたりして、当時のニュー・ウェイブ・サウンドの系列にあります。しかし、そればかりではなく膨大な知識が背後にあるのだろうなと想像されるサウンドになっています。

 恐らくはそのせいで、私などはかなり年輩の人がやっているのだろうと思っていました。一世代前のロックやフォーク、何ならグループサウンズの香りすらします。ところが、和久井はこの時22歳、老成しています。なるほど評論家になるわけです。

 こういうバンドが活躍したのも「東京ニュー・ウェイヴ」の醍醐味の一つでした。この当時のインディーズ・シーンは本当に面白かったです。「異彩を放って」そのシーンを盛り上げたスクリーンにも感謝をささげておきたいと思います。

Persona / Screen (1981 Smart Lookin')