ジョン・レノンとヨーコ・オノの初アルバムは大変に物議をかもした作品ですから、とても有名ですが、発表当時、実際にその作品を聴いたことがある人はほとんどいなかったのではないでしょうか。私も初めて聴いたのは発表から時代を下ること40年も後のことです。

 何が衝撃かというとまずはそのジャケットです。ジョンとヨーコが素っ裸で寄り添って立っており、その全身を正面と後ろから写した写真が使われています。全く修正なし。1968年当時の日本には輸入することすら不可能でした。国内公式リリースは29年後のことです。

 米国では二人の顔の部分のみを印刷したカバーに入れて発売されており、私の手元にはそれを忠実に再現した紙ジャケット盤があります。裏ジャケには旧約聖書創世記の一節が書かれています。「人とその妻は二人とも裸であったが、互いに恥ずかしいとは思わなかった。」

 分かりやすく社会に問いかけるジャケットほどではありませんが、サウンドも物議を醸しました。ビートルズのサウンドを頭に置いて聴き始めるとあまりのことに開いた口が塞がらないのではないでしょうか。延々といわゆる「前衛音楽」が展開していきますから。

 ジョンのビートルズ作品で言えば「レボリューション#9」が近いですが、何と本作品の発表は「ホワイト・アルバム」よりも前です。ジョージ・ハリソンにわずかに先を越されたものの、ビートルズ・メンバーがバンドを離れて発表した最初期のアルバムです。

 運命の出会いを果たしたジョンとヨーコは1968年5月19日に一晩でこの作品を完成させました。この頃までにジョンが録りためていたサウンド・コラージュを元にジョンとヨーコが即興で音を創り出していったということです。その夜、二人は結ばれたということです。知らんがな。

 メロディーらしいメロディーやリズムらしいリズムもなく、普通の意味でのボーカルもない。さまざまなサウンドをキャンバスにぐちゃぐちゃに塗りこめたようなサウンドです。発表当初は全12曲になっていましたが、後に統合されて15分弱の曲2曲とされました。

 この前衛サウンドを聴いていて、そういえばこれはシンセサイザー以前のサウンドだということに気が付いてはっとしてしまいました。いろんな音が入っていますけれども、基本的には全部楽器です。繰り返しもテープループを作らないとできない。

 単純なドローン・サウンドを作るのも大変ですし、コンピューターなしの宅録ですから録音自体も難しい作業です。要するに大そう忙しい。そのため、あちらこちらに期せずしてジョンのポップ・マエストロとしての顔が出てくるように思います。さすがはジョンです。

 この当時、こういう作業を自宅でやっていた中高生は結構いました。ジョンとヨーコの作品ですから、いろいろな解釈がなされますけれども、気分は宅録中高生と実は変わらなかったのではないでしょうか。シリアスな現代音楽に比べると、随分楽しそうです。

 1960年代の香りを存分に楽しめる「前衛」サウンドです。今はまとめられたとはいえ、基本は全12曲、短い曲が詰め込まれているわけですから、聴きやすいと言えば聴きやすいです。ジャケットがこうでなければもう少しは人気が出たかもしれませんね。

参照:「聖書」聖書協会共同訳(日本聖書協会)

Unfinished Music No.1, Two Virgins / John Lennon & Yoko Ono (1968 Apple)

ビデオはYouTubeではブロックされています。悪しからず。