「純愛」は稀代の名曲です。1975年に発表された片平なぎさのデビュー曲です。片平の伸びやかな歌声による切ない絶唱は本当に素晴らしい。私はこの曲が好きで好きで、ついつい「純愛」を含むベスト盤に手が伸びてしまいました。

 片平なぎさは「スター誕生!」出身で、それからずっとホリプロに所属しています。しかし。ホリプロのサイトで彼女のページを見ると過去の代表作に歌の項目がありません。もはや所属プロダクションを含め、彼女が歌手だったことを意識している人はほとんどいないのでしょう。

 それほど彼女は役者として大成しました。「二時間ドラマの女王」の称号はだてではなく、デビューして45年、出演作の切れ目もなく、代表作揃いの名優となっています。しかし、彼女は1975年1月に「純愛」でデビューした正真正銘の歌手だったんです。

 名曲「純愛」に続く「異性」もまた名曲でしたが、レコード大賞新人賞は3作目の「美しい契り」での受賞です。以降、1979年までに15枚のシングル、6枚のアルバムを発表しています。本人はあまり歌を歌うことが好きではなかったようですが、なかなかのキャリアです。

 「純愛」は山上路夫と三木たかしによる楽曲です。作詞の山上は「瀬戸の花嫁」や「翼をください」、「ひなげしの花」、作曲の三木は「津軽海峡・冬景色」や「つぐない」、さらには「アンパンマンのマーチ」などどちらも日本歌謡曲史に名を残す人です。

 本作品には15枚のシングルから選ばれた曲ばかり20曲が収録されています。面白いことに後半の何曲かはA面ではなくB面曲が選曲されています。さほどヒットしていないからということなのでしょうか、それとも大人の事情でしょうか。

 この頃の歌謡曲はアイドル歌謡と演歌がはっきり分かれているわけではありません。「純愛」からラテン風味の「異性」ときて、続く同じ三木たかしの「美しい契り」はまるで演歌仕様です。その後は定番のメロディーを擁する無難な曲が並んでいます。

 なかでは阿久悠作詞三木たかし作曲の「オリーブの華麗な青春」が目を引きます。また、70年代最後のシングル「じょっぱり」は花登筺が作詞をした曲で、片平なぎさ主演ドラマの主題歌です。ここが彼女のキャリアの分かれ目だったわけです。

 ところで、スタジオ・ミュージシャンの方から聞いた話ですが、アイドル歌謡の演奏を頼まれてスタジオ入りしたら歌メロの楽譜1枚しかなく、あとは適当にお願いしますと言われたことがあるそうです。そんなことを思って伴奏を楽しむのもありですね。

 本作収録曲がそうだというわけではありませんが、久しぶりに「純愛」を聴いて、曲の半ばから出てくるエモーショナル全開のエレキギターに耳を奪われました。また続く「異性」もイントロのギターや続くラテン風味のムード歌謡調の演奏が面白いです。

 片平なぎさは歌手としてまるで自信がなかったそうです。しかし、オートチューンもない時代につやつやした声でしっかりと歌い上げる実力は卑下するようなものではありません。こうして半世紀近くたつ今も聴いているファンもいますしね。

Golden Best / Nagisa Katahira (2002 EMI)