ギルガメッシュは古代オリエント最大の英雄です。その偉大な業績はシュメール文学最大の作品「ギルガメッシュ叙事詩」にまとめられています。そんな有名な古代の偉人の名前をバンド名にしたことはギルガメッシュにとって幸いだったのでしょうか。

 彼らには何の咎もありませんが、私の世代だとどうしてもお色気番組「ギルガメッシュないと」を思い出してしまいますし、若いビジュアル系に同名のバンドがありました。検索してもバンドが真っ先にくるわけもないですし、何だか損しているような気がします。

 ここで紹介するギルガメッシュは1970年代に英国のカンタベリー・シーンで活躍したプログレッシブ・ロック・バンドです。結成は1972年のことで、セルフ・タイトルの本作品は彼らのデビュー・アルバムです。発表は1975年です。

 カンタベリー・シーンとはソフト・マシーンを筆頭に英国的ジャズ・ロックを追及した一連のバンドに言及する時に使われる言葉です。多くのアーティストが離合集散を繰り返しましたから、バンド名もさることながらアーティスト名も重要な意味をもっています。

 ギルガメッシュの中心人物はキーボード奏者のアラン・ゴーウェンです。ジャズをバックグラウンドに持ち、キング・クリムゾンに加入するジェイミー・ミューアなどとサンシップというバンドもやっていました。そのサンシップが解散した後に結成したのがギルがメッシュです。

 バンド・メンバーはなかなか安定しませんでしたが、ファースト・アルバムの時点ではギターのフィル・リー、ドラムのマイク・トラヴィス、ベースのジェフ・クラインの四人組になっています。アルバムにはゲストとしてボーカルのアマンダ・パーソンズが加わっています。

 ゴーウェンは同じカンタベリー・シーンの重要バンド、ハットフィールド・アンド・ザ・ノースのオーディションに挑戦したものの、デイヴ・スチュワートにその座を奪われています。しかし、デイヴは本作のプロデュースを手伝い、ハットフィールドとギルガメッシュは仲良しとなります。

 本作品には3つの組曲と5曲の小品が収録されています。組曲というのがプログレっぽいですが、それぞれが3つのパートに分かれており、全体で14の短い曲からなっていると言った方が分かりやすいです。このそれぞれが美しい調べのジャズ・ロックとなっています。
Caroline
 アマンダはボーカルというよりもボイスでの参加ですから、全編これインストゥルメンタルと言ってよいです。カンタベリー・シーンに特有のブルース臭の少ないしゅっとしたジャズ・ロックがてんこ盛りです。それぞれが技巧を凝らしながらもとにかく美しい。そこが魅力です。

 フランク・ザッパ先生と比べられることも多いようですが、先生の猥雑さは皆無ですから、この比較が良いのかどうか。ジャケットのボードゲームは皮肉が利いていて面白いですが。「レコード会社からランチに招かれる。2マス進む」「食事代が印税から引かれる。3マス戻る」。

 なお、いかにもカンタベリー・シーンらしく、ギルガメッシュはハットフィールドとくっついたり離れたり、ナショナル・ヘルスというバンドになったり、ギルガメッシュに戻ったり。そんな離合集散込みで味わうのがシーンの歩き方です。ちょっといいバンドでした。

Gilgamesh / Gilgamesh (1975 Caroline)