ブライアン・イーノがトーキング・ヘッズとコラボしてリズムの冒険をしていた時期に、アフリカのバンドをプロデュースしたというニュースが駆け巡りました。1981年のことで、ここ日本でも大いに話題になり日本盤も発売されました。

 それがこのアルバム、ガーナのエディカンフォによる「ペース・セッター」です。こうしてCD化されたのはオリジナルの発売から40年を経た2020年のことです。この間、エディカンフォの消息はようとして知れませんでしたから、まさに幻のアルバムです。

 というのもエディカンフォがまさに世界に旅立たんとした1981年末、ガーナのローリングス大尉による政変が起き、ガーナのエンターテインメント暗黒時代を迎えてしまいます。その結果、彼らは活動を停止し、メンバーも世界中に四散してしまったのでした。

 エディカンフォはガーナ音楽界のドン、ファイサル・ヘルワニが黒幕となって作り上げられたバンドです。ファイサルはヒュー・マセケラとのコラボで知られるヘゾレなるバンドも手掛けていましたが、同バンドが解散した後、そのメンバーなどを集めて作ったのがエディカンフォです。

 目先の利くファイサルは、イーノをガーナの音楽フェスにに招きます。フェラ・クティに傾倒していたイーノはこれを快諾、同時にエディカンフォのプロデュースを引き受けます。見返りはイーノのためにエディカンフォの演奏を素材として提供するというものでした。

 エディカンフォは総勢8人組のバンドです。その名前の意味するところはまさに「ペース・セッター」なのだそうです。ギター、ベース、ドラム、トランペット、サックス、キーボード、パーカッション2人の構成で、全員がボーカルもとっています。

 彼らのサウンドはアフロ・ビートとハイライフのミクスチャーと紹介されることが多いです。まさにその通りで、フェラの重いアフロ・ビートにハイライフの軽やかさをミックスしたとても気持ちの良いサウンドです。それに面白いことにブレイク・ビーツのようなビートまで登場します。

 収録された曲は全部で6曲で、リーダーのオセイ・トゥトゥが2曲、4人のメンバーがそれぞれ1曲ずつ作曲のクレジットを分け合っています。しかし、これはそれぞれが単独で曲をつくって持ち寄ったというわけではないようです。皆で作り上げる音楽です。

 イーノによれば、マイクをテストするためにパーカッション奏者に自分のパートを演奏するように頼んだところ、彼は困ってしまい、結局できなかったとのことです。要するに個々のパートがあるのではなく、常に全体の一部としてのパートになっている。深いです。

 そのため、イーノが自分の作品用に持ち帰った彼らの音源には全く手を入れることが出来なかったそうです。入れたら損なわれてしまう。これがエディカンフォの音楽です。還元することのできない音楽、分解不能ですから足し算もできない。

 イーノは本作にも手を入れているわけではなく良い音で録音することに徹しているようです。そのおかげでこうして彼らの貴重な演奏が聴ける。まさに奇跡です。なお、エディカンフォは本作の再発を機にアムステルダムで再始動しているそうです。

The Pace Setter / Edikanfo (1981 EG)