イギリス人といえばこの人、ニール・イネスです。アイロニーに満ちた溢れんばかりのウィットで制作した作品を作り続けた人です。英国人気質とは何かと聞かれたら、迷わずニール・イネスを聴かせればよいと思います。言葉で説明するよりも効果てきめんです。

 本作品はニール・イネスの4枚目のソロ・アルバムです。イネスはミュージシャンとして「ボンゾ・ドッグ・ドゥー・ダー・バンドやラトルズのメンバーとして知られ」るほかに、これまたこれぞイギリスのモンティ・パイソンでも重要な役割を果たしていた人です。

 そのイネスに白羽の矢を立てたのがBBCで、イネスの主演・脚本による「イネス・ブック・オブ・レコーズ」なる30分間のTVバラエティ番組を1979年1月から1981年11月まで3シーズンにわたって制作・放送しました。3シーズンということはそれなりに人気があったのでしょう。

 番組ではイネスが毎週ゲストを招いて、歌とコントを披露するというものだったそうです。普通ならヒット曲などを使ったりするところかもしれませんが、イネスは根がミュージシャンですから、番組のために張り切って音楽を制作しました。さすがです。

 その番組用に制作した音源をまとめたアルバムが番組とタイトルを共有する「ブック・オブ・レコーズ」でした。1979年に発表されていますから番組のシーズン1の音楽を使ったものと思われます。その後1982年、番組終了後に発表されたのがこのアルバムです。

 レコーディングには総勢50人にも及ぶミュージシャンがクレジットされています。有名どころではケヴィン・エアーズの友オリー・ハルソール、元モット・ザ・フープルで日本びいきのモーガン・フィッシャー、ペンギン・カフェ・オーケストラのギャヴィン・ライトなどの名前が光ります。

 タイトルは「オフ・ザ・レコード」。これまた粋なタイトルです。本作品はCDでは一枚ですが、LPでは2枚組です。3シーズンで3枚ですから、本作品はシーズン2と3を代表しているのかもしれませんね。番組用の音源は他にもあり、後のアンソロジーで発表されたりもしています。

 アルバム収録の全20曲はいかにもテレビ・バラエティで使用された作品らしく、1曲1曲が独立した世界となっており、さまざまなスタイルがてんこ盛りとなっています。頭に浮かんだ雑多ともいえるアイデアを正統派ブリティッシュ・ポップにまとめる才能が凄い。

 たとえば「ストーンド・オン・ロック」。イントロのオルガンを聴けばだれしもドアーズを思い浮かべることでしょう。このアイデアの断片から曲全体をひねり出す手腕が素晴らしいです。一方、「ゴッドフリー・ダニエル」はタイトルからも分かる通り、徹頭徹尾エルトン・ジョンです。

 そんな小ネタには事欠きません。イネスらしいビートルズっぽい曲もありますし、「マカロニ・ウェスタン」なる曲もあれば、冒頭の「リビドー」はカリプソです。ストリングスやホーンを多用したボードヴィル調の曲もあれば、ディスコもあります。とにかく楽しいです。

 歌詞もまた面白いです。例のコンテストを皮肉る「ミスター・ユーロヴィジョン」や、国会議員を揶揄する「バーレスク」、テイク・アウトでもイート・インでも金さえ払ってくれればどっちでもいいと歌う「テイクアウェイ」とか。最初から最後まで超がつくブリティッシュ・ポップ!

Off The Record / Neil Innes (1982 MMC)