モンスター・アルバムの後始末は大変なものなのでしょう。ダイアー・ストレイツは「ブラザーズ・イン・アームス」を発表し、大掛かりなツアーを行った後、いったん解散してしまいました。それほど意外な感じはしなかったことを覚えています。

 むしろ意外だったのは再結成されて前作から6年ぶりに本作「オン・エヴリー・ストリート」が発表されたことでした。世間もそう思ったのか、残念ながら、セールスはどうしてもダイナマイト級の前作には及びませんでした。世界中で1500万枚も売れているというのにです。

 バンド解散後、マーク・ノップラーは映画音楽を手掛けたり、カントリー・ロックのノッティング・ヒルビリーズを結成して活動してみたり、カントリー音楽のレジェンド、チェット・アトキンスとコラボしてみたりと縦横無尽の活躍を続けていました。

 しかし、ダイアー・ストレイツは戻ってきました。今回集まったのは、ノップラーに加えて、オリジナル・メンバーのジョン・イルズリー、そしてアラン・クラークとガイ・フレッチャーのキーボード2人の4人です。フレッチャーはヒルビリーズにも参加していました。

 ドラムがいませんが、そこはTOTOのジェフ・ポーカロが迎えられました。ただし、アプローチを変えたいとのノップラーの希望を受けて2曲でマヌ・カッチェがドラムをたたいています。さすがはダイアー・ストレイツ、大物をさくっと連れてきました。

 プロデュースには初めてバンド名がクレジットされました。ドラムの他にも多彩なゲスト陣が招かれてはいるものの、このアルバムではバンドであることが重視されているように思います。それだからこそのリユニオンでもあるのでしょう。

 ノップラーは本作ではみんなで一緒に演奏して、それを出来るだけ手を加えないで残すことにしたそうです。そうすると何かが起こる。コラボしたアトキンスの発言を借りると「そうするとミスが残るもんだが、しばらくたつとそれがミスじゃなくて正しく聴こえるんだ」とのことです。

 本作品の中では「ヘヴィー・フュエル」と「マイ・パーティー」の2曲をノップラーは気に入っていないそうです。ジョークのような曲なのでアルバムの命を縮めると思ったそうです。アルバムのテーマは気にしないけれども、持続性には気を遣う。

 これまでのダイアー・ストレイツのアルバムはとにかくロング・セラーであることに定評があります。それはノップラーの狙いでもあったわけです。そう思うと一見地味に思える彼らのサウンドも少し違って見えます。大したバンドです。

 本作ではジョージ・マーティンも関わったストリングスやカントリー歌手ヴィンス・ギルのギター、前作後のツアーに同行したクリス・ホワイトのサックスなど多彩なサウンドも織り込まれています。カントリー音楽の影響が強いのが他の作品との違いでしょうか。

 ノップラーのギターはもちろん大活躍です。ときにサンタナを思わせる高揚を見せたり、さまざまな音色を駆使して、繊細なサウンドを編み上げていきます。狙い通りにいつまでも聴いていられる、これまた噛み応えのある素晴らしい作品です。これが最後とは惜しいことです。

参照:Mark Knopfler Interview by Chris Willman 1992 Los Angeles Times Mark Knopfler Interview by Chris Willman 1992 Los Angeles Times 

On Every Street / Dire Straits (1991 Vertigo)