プルリエントとは淫乱とか好色を意味する形容詞です。そんな剣呑な名前をステージ・ネームにしているのはイアン・ドミニク・ファーノウというアメリカのアーティストです。子どもの頃からデス・メタルにはまっていたというドミニクはエクストリーム系のサウンドを追及しています。

 ドミニクのキャリアは長く、最初のアルバムを自身のレーベルから出したのは1998年、彼がまだ10代の頃です。それからさまざまな名義で数多くのアルバムなどを発表してきて2020年の本作品に至ります。ドイツのテスコ・オーガニゼーションからの初アルバムです。

 テスコは1987年に設立されたレコード・レーベルでノイズ系、インダストリアル系のアーティストを抱えています。スロッビング・グリッスルやSPK、ノンなどの初期インダストリアル・サウンドのテイストを蘇らせたかったという店主の言葉でサウンドの想像がつきます。

 本作品は2016年冬にニューヨークで録音され、翌年の夏にドイツで追加のアナログ処理を行ってまとめられました。CDだと1枚ですがLPにして2枚組となる大作です。全編これエクストリームなインダストリアル・サウンドが展開しています。

 アルバムのタイトルは「カサブランカ・フレームスローワー」とされました。隠れ場所であるカサブランカを火炎放射器が襲うというこれまた剣呑な意味合いが込められています。このタイトルのみならず、扱われている題材はとてつもなく重いものばかりです。

 中でも最も胸糞悪くなるのは「ガダルカナル・ネクロフィリア」です。紙ジャケットを開くと大きく写真が出てきます。第二次大戦中に出征中のボーイフレンドから日本兵の頭蓋骨を贈られた女性がうっとりと頭蓋骨を見つめながらお礼の手紙を書いている写真です。

 そもそもジャケットの小さい写真が焼き殺された死体です。添付されているブックレットには激しい戦闘の後の写真が満載です。雪の中にごろごろ転がる死体、破壊されたビル、甲板を埋める袋詰めの遺体、戦車、竹やりの罠などなど。

 ドミニクによれば、この作品が扱っているのはもう一つの歴史です。それは隠された連合軍の戦争犯罪です。忘れられた犠牲者とその事実の後に作り上げられた記念碑の数々。知られていることを隠すことによって見える歴史。それは未来のない過去であると。

 露悪的と嫌悪するのも一つの反応でしょうが、こうした負の側面に正面から向かい合うドミニクのような人がいなくなっては困ります。ドミニクはこうした人間の性をエネルギーに音楽を作り上げています。ドゥーム・エレクトロニクスと称されるサウンドを。

 本作品では全13曲にわたって終末エレクトロニクスが展開します。ドミニクはシンセ、メタル、エフェクト、フィードバックとヴォイスを駆使してエクストリームなインダストリアル・サウンドを作り上げます。工場の機械が生きるリズムの上をノイズが走る。

 クリス・ラプケのパーカッションとループを除けばドミニクのソロです。ホワイトハウスなどのエクストリーム・ノイズと同系統のサウンドですが、その安定感がより不穏な空気を巻き起こします。人生、時にはこうした音楽に向き合うことが必要です。体に染み渡ります。

Casablanca Flamethrower / Prurient (2020 Tesco)