モンスター・アルバムです。ダイアー・ストレイツはここまでのアルバムがすべて大ヒットを記録していますが、このアルバムは桁が違いました。英米はもちろんのこと世界中でチャートを制し、全世界でこれまでに3000万枚以上を売り上げるウルトラ・ヒットです。

 現象的にはMTVとの相互作用が原因の一つです。本作発表の前年にはMTVアウォードが創設されるなど、この時期の音楽界はMTV抜きに語れません。ここでヘビロテされたのが、本作からのシングル「マネー・フォー・ナッシング」でした。

 当時としては最先端のCGを駆使したMVで、MTVを揶揄する歌詞であったことも当時のMTVファンには大いに受けました。一般的な知名度の高いスティングが共演していたことも後押しとなり、見事に全米1位を獲得しました。

 アルバムはこの曲に引っぱられましたが、その後もロング・セラーを続けます。英国では3年以上にわたりチャートインしていますし、米国でも長い。もともとダイアー・ストレイツは瞬発力よりも持続力でチャートを制してきましたが、それにしても本作はけた違いです。

 その傑作アルバムがこれまでで最もバンド感が薄いというところが面白いです。まずはゲスト陣が豪華です。前述のスティングはもちろんですが、「愛のトリック」ではブレッカー・ブラザーズのホーンが準主役になるなどこれまでの彼らでは考えられません。

 ドラムはオリジナル・メンバーのピック・ウィザースがデイヴ・エドモンズなどと共演していたテリー・ウィリアムスに交代していますが、さらにそれに被せるようにウェザー・レポートのオマー・ハキムが起用され、なぜかメンバー・クレジットされています。

 さらにベースにも一部トニー・レヴィンが起用されるなど、マーク・ノップラーの思い描くサウンドを得るために何の制約もなくなりました。マークをシンガー・ソング・ライターと評する人も出てきましたが、普通いくらワンマンでもバンド・リーダーをそうは呼びませんよね。

 共同プロデューサーはマイク・マイニエリつながりで前作のエンジニアを務めたニール・ドーフスマンです。彼はデジタル録音が得意で、本作品は当時のデジタル技術の粋を集めたものとして評価が高いです。このあたりは今となっては歴史ですね。

 本作品は前作に比べるととにかくバラエティに富んでいて、しかもそのいずれもがポップに仕上がっています。アルバム毎に表情が異なりましたが、ここではそのすべてを持ち込んで洗練して、しかもポップにしました。その意味ではマーク・ノップラーの集大成でしょう。

 ギターの音は特に凄くて「マネー・フォー・ナッシング」ではZZトップ仕様ですし、「ホワイ・ウォリー」ではクリア・トーン、アコギを使った曲もあって、曲ごとにギター・サウンドも千変万化です。もはやマークの個性はしっかり確立し、ボブ・ディランの名前を出す人もなくなりました。

 どちらかと言えば地味なアルバムのはずですが、間口を広げたことでオーディエンスが増えると、その人たちが絡めとられていったということでしょう。それだけ中毒性の高いサウンドが大西洋の両側を席巻したというわけです。確かに聞けば聴くほどはまっていきます。

Brothers In Arms / Dire Straits (1985 Vertigo)