時おり無性に聴きたくなることがある久保田麻琴の音楽です。本作品は1977年に発表された夕焼け楽団の3枚目のアルバムです。紙ジャケ再発では久保田麻琴と夕焼け楽団名義になっていますが、もともとは夕焼け楽団単独名義だったと思います。

 夕焼け楽団は英語名をザ・サンセット・ギャングとされています。素敵な命名ですね。日本語と英語のニュアンスの微妙な違いの醸し出す味わいがいいです。夕焼けの哀愁に照らされた人のいいギャングという感じでしょうか。

 本作品は「ディキシー・フィーバー」に続く夕焼け楽団の3枚目のアルバムです。前作は八木康夫のイラストでしたが、今回は後にシゲチャンランドを設立した大西重成が担当しています。水彩絵具による書道のようなこれまた味わい深いジャケットです。渋い。

 「ディキシー・フィーバー」ではドクター・ジョンの盟友ロニー・バロンの全面参加を得て、テックス・メックス系のディープなアメリカン・ロックを全開させましたが、本作においてもバロンは健在で、再びアメリカン・テイストの強いアルバムを作り上げました。

 彼らはレーベルをショーボートから日本コロムビア内に設けられたベター・デイズに移籍しています。バロンも参加していたポール・バターフィールズ・ベター・デイズと同じ名前とは日本コロムビアも粋なことをするものです。

 ちなみに本作にはゲストでベター・デイズにいたジェフ・マルダーにエイモス・ギャレットも参加しており、ミニ・リユニオンが実現しています。このゲスト陣、カバー曲の選曲センスなどを見ていると、彼らに国境はまるで存在しないかのようです。

 この作品は日本発のアメリカン・ルーツ・ロックと言っても差し支えありません。一方で、ボーカルはしっかり日本のロックしてもいて、世界中を旅して各地のサウンドのエッセンスを吸収してきた中には当然日本もその対象に入っていたことが分かります。

 タイトル曲ともなった「ラッキー・オールド・サン」は京都の老舗ライブハウス「拾得」のマスターがつけた訳詞があまりにぴったりでまるで日本の曲のようですが、1949年にヒットしたアメリカの曲です。レイ・チャールズやサッチモ、アレサ・フランクリンにもカバーされています。

 もう一曲のカバーはまさかの「オー・スザンナ」です。小学校の音楽の授業でも定番の曲ですが、ジェームス・テイラーなどもカバーしています。こんな曲をもってきてしっかりロックして、泰然としているところなど、ギャングたちの老成ぶりが伺われます。

 ための効いたリズム、縦横無尽にアメリカンを響かせる泥臭いギター、夕焼けが似合うボーカルとこのバンドのサウンドは渋くてすばらしいです。ザ・バンドのテイストに近いといえば近い。しかし、そこはしっかり日本のバンドです。そのバランスがいいです。

 あまりヒットしたという話は聞きませんが、いつまでも愛しつづけられているアルバムです。夕焼け楽団の最高傑作にあげる人も多いです。充実した名盤なので、このアルバムを語る人々の幸せそうなことったらありません。幸せを連れてくるアルバムです。

The Lucky Old Sun / The Sunset Gang (1977 Better Days)