これはプログレッシブ・ロックです。ボブ・ディランからブルース・スプリングスティーンの系譜にあるマーク・ノップラーのダイアー・ストレイツはやはりイギリスのバンドでした。脈々と流れるプログレの血が騒いでこの傑作を作り上げました。面白いです。

 前作からほぼ2年の間隔をあけて発表されたダイアー・ストレイツの4枚目のアルバムです。タイトルは「ラヴ・オーヴァー・ゴールド」。金欠をバンド名とする彼らが、いまや金に不自由しない地位に登りつめて叫ぶ「金より愛だ!」。深いです。

 さて、ダイアー・ストレイツは前作発表後のツアーにて二人メンバーを増やし、そのまま5人組となって本作品の制作に入りました。プロデューサーは初めてマーク・ノップラー単独名義となりました。初の完全セルフ・プロデュース作品です。プログレ的です。

 メンバーはマーク、ベースのジョン・イルズリー、ドラムのピック・ウィザースのオリジナル三人に加えて、ギターにハル・リンデス、キーボードにアラン・クラークで5人です。アランはジョーディーに一時いたことがありますが、二人ともここから出発といってもおかしくありません。

 さらに特筆されるのはゲストにフュージョン系のヴァイブ奏者マイク・マイニエリが参加していることです。ブレッカー兄弟やスティーヴ・ガッドなどとニューヨークのフュージョンを牽引した人で、渡辺香津美の代表作「トチカ」をプロデュースするなど、日本とも縁が深いです。

 さらにシンセのプログラミングのためにエド・ウォルシュの名前が見られます。彼はジョン・レノンの「ダブル・ファンタジー」などさまざまなアルバムでシンセを操っています。まだシンセが珍しかったころです。渡辺の「トチカ」にも参加していますから、その縁での参加でしょうか。

 どんどんプログレ気分が盛り上がってきました。アルバムは最初に14分を超える超大作「テレグラフ・ロード」で始まります。アランのピアノが活躍するまるでドラマのような曲で、これまでに比べると断然シリアスな曲調になっています。

 続く「哀しみのダイアリー」も7分近くある大作で、私立探偵の悲哀を描いた秀逸な歌詞がいいです。これはシングル・カットされて英国では初のトップ5に入るヒットになりました。何とA面はこれで終わりです。プログレ的と言われる所以でもあります。

 B面に移って1曲目の「公害病」はアメリカでシングル・カットされ、それなりにヒットしました。この曲などはシンセが全開で、それまでの彼らからは考えられない曲です。誤解を与える邦題ですが、疎外される工場労働者を描いた曲です。

 タイトル曲は「哀しみのダイアリー」とともにマイク・マイニエリのバイブが映える曲です。そうして最後の「イット・ネバー・レインズ」まで、生々しい現実感あふれるシリアスなドラマが展開していきます。ぎりぎりのところでポップではありますが、プログレ全開です。

 本作は世界中で愛されました。英国ではもちろんのこと、オランダ、ノルウェーなどのヨーロッパ、オーストラリアやニュージーランドでも1位になっています。米国では19位どまりでしたが、ディラン的世界をプログレ展開したダイアー・ストレイツは世界の期待にこたえました。

Love Over Gold / Dire Straits (1982 Vertigo)