ダイアー・ストレイツの三作目のアルバム「メイキング・ムーヴィーズ」です。前作から1年余り、まずは快調なアルバム制作ペースです。前作も前々作もヒットしましたから、余裕があったのでしょう。思うがままのサウンド作りが出来たのではないでしょうか。

 制作順は前後しますが、前作発表後に彼らが参加したボブ・ディランの傑作「スロー・トレイン・カミング」が発表されてヒットしており、世の多くの人々にダイアー・ストレイツが何者であるのか強く印象付けられたものと思います。

 今回のプロデューサーはマーク・ノップラー自身とジミー・アイオヴァンが担当しています。アイオヴァンはパティ・スミス・グループで名を馳せた人で、マークは彼がプロデュースした「ビコーズ・ザ・ナイト」を聴いて彼に惚れ込んだそうです。

 アイオヴァンはブルース・スプリングスティーンの名作「明日なき暴走」にも関わっていました。その縁で、このアルバムにはキーボードにEストリート・バンドのロイ・ビタンが参加しています。彼のピアノが要所要所でとてもいい味を出しています。

 そのせいもあるのでしょうが、前作に比べると、よりルー・リードやスプリングスティーンの系譜にあるサウンドになっています。ディランの影響は早くから言われていましたが、考えてみれば米国のソリッド・ロックの系譜で言えばそっちに寄っているのも当然です。

 バンドは本作の制作中にマークの弟デヴィッド・ノップラーが抜けて三人組になってしまいました。デヴィッドが録っていたパートはマークが後に差し替えたそうです。兄弟が同じ楽器をやって、主導権は明らかに兄というのは弟としてやりきれない気持ちにもなるでしょう。

 残念ながらデヴィッドが抜けたことがこのアルバムに何の影響も与えていなさそうです。そこがまた悲しい。この時点ではこれが彼らの最高傑作だという人が多かったほどの傑作です。英国では5年近くもチャートにとどまるロング・セラーです。

 アルバムはロジャー&ハマースタインのミュージカル「回転木馬」から歌詞を一部引用した「トンネル・オブ・ラヴ」で始まります。前作の大御所によるプロダクションに比べると、ガレージっぽい感触があってバンドの息遣いがより生々しく聴こえてきます。

 続く「ロミオとジュリエット」はゴシップ記事となったマーク自身の失恋を題材にしていると噂の曲で、全英トップ10ヒットとなっています。続く「メイキング・ムーヴィー」までの3曲はいずれもシングル・カット曲です。いずれも落ち着いた曲調が素敵です。

 なお邦題が「メイキング・ムーヴィー」ですが原題は「スケートアウェイ」です。ややこしいのはアルバムに収録されなかった「メイキング・ムーヴィーズ」なる曲がドキュメンタリー番組でも放映されていたことです。プチ情報でした。

 最後のボードヴィル調の「男達は・・・」は評価が分かれますが、ニューヨークのパワーハウスで録られた米国ロック・スターの系譜に連なる本アルバムはダイアー・ストレイツの真骨頂を発揮した傑作です。聴けば聴くほど味わい深い見事なアルバムだと思います。

Making Movies / Dire Straits (1980 Vertigo)