ダイアー・ストレイツのデビュー作「悲しきサルタン」はじわじわと売れましたから、米国でゴールド・ディスクに輝いたのは発表から半年後のことでした。そのため、このセカンド・アルバムは間髪を入れずに発表されたように感じてしまいます。

 ダイアー・ストレイツにはまった私の知人などは、二枚同時発売だと思っていたくらいですが、本作品「コミュニケ」は前作発表から約1年後の発表ですから、極めて自然なペースで発売されたことになります。受け止める側の問題です。

 本作品のプロデュースは前作の発売にあたって「次はちゃんとした作品を作ろう」などと発言していた大物プロデューサーのジェリー・ウェクスラーと、マッスル・ショールズの男バリー・ベケットが共同で担当しています。業界的には凄いことです。

 ウェクスラーが関わってきたアーティストにはオールマン・ブラザーズ・バンドやアレサ・フランクリン、ボブ・ディランなどがいますし、ベケットもディープな南部サウンドからポール・サイモンまで幅広くアメリカンなサウンド作りに関わってきました。

 ダイアー・ストレイツは自然にそのアーティストの並びに収まる稀有なブリティッシュ・バンドです。彼らの米国での成功を誰もブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばないのは、彼らのことをアメリカのバンドだと思っている人が多いということではないでしょうか。

 「コミュニケ」は二人のプロデュースの元、まずはバハマはナッソーのコンパス・ポイント・スタジオで録音されました。このスタジオはアイランド・レコードのクリス・ブラックウェルが作ったもので、この当時はさまざまなアーティストがこぞって録音したがったものです。

 さらにそのサウンドを米国のマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオでミックスしています。デビュー作の成功はダイアー・ストレイツの待遇を大きく変えたことは間違いありません。この制作場所だけを見ても大物の扱いです。

 サウンドの方も大物感が漂っています。前作はデビュー作ということもあって、ダイアー・ストレイツらしい個性が発露していたものの、いろいろなサウンドを試してみた感じがありました。しかし、本作になると落ち着いて堂々とわが道を進んでいます。

 マーク・ノップラーのボブ・ディランっぽいボーカルにも磨きがかかり、やさしく愛撫しているようなギター・サウンドも深みが増しています。ジョン・イルズリーとピック・ウィザースのリズム・セクションもマッスル・ショールズへの感動が表れているようです。

 マークの弟デヴィッドのリズム・ギターも艶やかですし、なぜか変名を使っているベケットのピアノはマッスル・ショールズそのものです。こうしてアルバム発表前にはボブ・ディランの「スロー・トレイン・カミング」にメンバーが参加したのも頷けるサウンドが完成しています。

 アルバムからは少し「悲しきサルタン」を思わせる「翔んでる!レディ」がシングル・カットされましたが、さほどヒットはしませんでした。アルバムもそこそこヒットしましたが前作ほどではありません。落ち着いたサウンドはやはり少し地味でした。いいアルバムですけれども。

Communiqué / Dire Straits (1979 Vertigo)