とにかくストレートなパンク・サウンドで突っ走ってきたザ・ブルーハーツですが、3作目となる「トレイン・トレイン」では、ザ・ジャムやクラッシュなどと同じようにストレート一辺倒ではなく、さまざまな音楽的な背景を感じさせるカラフルなアルバムを作りました。

 本作品はザ・ブルーハーツの出世作であり、アルバムの売り上げは50万枚を越え、オリコン・チャートでも3位となる大ヒットを記録しています。シングル・カットされた「トレイン・トレイン」と「青空」もトップ10入りするヒットとなり、彼らの代表曲になりました。

 プロデューサーの発案だそうですが、アルバムの仕様はコンセプト・アルバムです。ジャケットは列車の切符を模していますし、見開きジャケの内側には機関車のイラスト、ブックレットは電車のヘッドマークとなっています。まさにトレイン・トレインです。

 さらに一曲目の「トレイン・トレイン」の冒頭に汽車が走っている風なハーモニカが出てくると、最後の曲の後に「トレイン・トレイン」のさびとハーモニカがもう一度流れる仕組みです。こうしたコンセプトを採用したところにも彼らの変化を感じます。

 サウンドの方でも、一貫して疾走感のあるシンプルなサウンドではあるのですが、やはり一筋縄ではいきません。それはストリングスやホーンの使用、ゲスト・ミュージシャンの起用などからも分かります。4人だけのシンプル・サウンドだけというわけではありません。

 「ミサイル」では真島昌利のローリング・ストーンズばりのギターが出てきます。「無言電話のブルース」にもストーンズの影響がみられます。真島の格好はそういえばキース・リチャードやロン・ウッドのそれにもともと近かった。

 驚くべきはバラードとしては初めてシングルカットされた「ラブレター」です。コーラスの入り方、リズムなどはまるでスモーキー・ロビンソンのようだと思いました。甲本ヒロトのボーカルはスモーキーの向こうをはって大健闘しています。

 続く「ながれもの」ではフィドルが入ってカントリー・タッチですし、ふたたび典型的なブルースに戻って真島がボーカルをとる「ブルースをけとばせ」へと流れこみます。このあたりの並びを聴いていると、いかに彼らが多彩な音楽を吸収してきたのかが分かるというものです。

 さらにフォーク調ともいえる曲調のシンプルな歌もの「青空」での甲本のボーカルのキレもいいです。はっきりと歌詞が聴きとれる甲本のスタイルがレイシストを糾弾する歌詞の説得力を倍増しています。このバンドはとにかく誠実です。

 タイトル曲の「トレイン・トレイン」は今でもテレビに電車が映ると高い確率で流れてくるほどの名曲です。♪見えない自由を求めて♪のサビよりも、♪トレイン、トレイン、走ってゆく♪が良かった。この勢いがやはりブルーハーツの真骨頂です。しびれますね。

 この当時、ロック・ファンはブルーハーツ派とボウイ派に分かれており、両者はお互いを理解することがなかったという話があります。すでに若者ではなかったので、当時の事情は分かりませんが、十分にありそうな話だと思いました。

Train-Train / The Blue Hearts (1988 Meldac)