ザ・ブルーハーツの登場は衝撃的でした。まるでパンク。初めて彼らをテレビで見た時には驚きました。まるで初期のジャムのような疾走感のあるパンク・サウンドをイアン・カーティスのような痙攣パフォーマンスで歌う甲本ヒロト。

 セルフ・タイトルの本作品はザ・ブルーハーツのデビュー・アルバムです。時は1987年5月のことです。パンクの勃興からはすでに10年を優に過ぎており、私などの世代からすればとても耳に馴染むむしろ懐かしいサウンドにあたりました。

 彼らはモッズ・シーンから出てきたということです。その頃日本にそうしたシーンがあったというのが驚きです。ザ・ブルーハーツは同シーンで人気があったバンドから甲本と真島昌利を中心に結成され、ホコ天や渋谷屋根裏などを拠点に活動を始めたのだそうです。

 モッズであれば、初期のジャムを連想したのは自然なことで、高速かつシンプルなロックンロール・サウンドはまさにモッズ。ただし、甲本や真島のいでたちはこぎれいなモッズというよりはパンクスでした。どっちでもいいことですが。

 やがて、彼らの演奏は評判になります。1987年2月にはインディーズでシングルを発表、めでたくメジャー・デビューにつながり、本作品の発表に至っています。メジャー・デビュー・シングルは彼らの代名詞ともなる「リンダリンダ」です。

 本作品はメンバー四人だけでとにかくぐいぐい押しまくるサウンドを展開しています。全12曲で34分、パンクスらしく短い曲を畳みかけてきます。まるでストレートなモッズ風パンク、その名も「パンク・ロック」という曲まであります。

 このバンドの特徴は何といっても甲本のボーカルです。かつて日本語でロックできるかという面倒くさい議論があったのですが、彼のような回答があったということが驚きです。英語的な発音になることなく、綺麗な日本語で見事にロックしています。

 忌野清志郎と比べられることが多いと思いますが、フォーク出身の清志郎とは少し意味が違うと思います。また遠藤ミチロウとも少し違う。とにかくストレートに日本語を歌っているのですが、サウンドはシンプルなパンク・サウンド。ミスマッチなはずなのにやけにしっくりきます。

 そして、歌詞がまた良いです。甲本と真島がメイン・ソングライターですが、どっちがどっちというよりも、どちらが書いてもとてもブルーハーツらしいです。社会の不条理をついて、若者の心情を歌っているわけですが、言葉がきちんと詩になっています。これまた稀有です。

 本作は後のアルバムに比べるとそれほど売れたわけではありませんが、後にベスト・アルバムを編むと必ず大量に選ばれます。デビュー時の勢いで一気にアルバムを仕上げたことがよく分かる愛しい作品です。若いエネルギーは素晴らしいです。

 ベストトラックはやはり「リンダリンダ」でしょう。繰り返される♪リンダリンダ♪の高揚感を最高な形で爆発させる曲の構成も見事で、とにかく気持ちがいい。誰が歌ってもいいけど甲本が歌うとやはり最高です。この時代を代表する曲として永遠に受け継がれることでしょう。

The Blue Hearts / The Blue Hearts (1987 Meldac)