マッシヴ・アタックはイギリスのブリストル出身です。ブリストルと言えば、私の世代にはまずザ・ポップ・グループの名前が頭に浮かびます。先鋭的なサウンドを送り出す音楽の聖地です。マッシヴ・アタックもブリストルの名前を広めることに一役かったユニットです。

 本作品はマッシヴ・アタックの三枚目のアルバム「メザニーン」です。彼らのアルバムの中では最も商業的な成功を収めたアルバムとして名高いです。ただし、1、2枚目の評価が極めて高いことから、どこか代表作と呼ぶことがはばかられる作品でもあります。

 オリジナル・メンバーの一人マッシュルームことアンドリュー・ヴォウルズが、本作品でのサンプリングの多用やロック寄りになったサウンドに不満を感じて、リリース後に脱退してしまうという事件もありました。マッシュルームは人気が高かったんですね。

 マッシヴ・アタックのサウンドはブリストル・サウンドもしくはトリップ・ホップと呼ばれています。本作品はそうした評価が定まった後に出されたアルバムですから、本人たちも意識せざるを得なかったことでしょう。それがために方向修正だったのかもしれません。

 アルバムはダークでアンビエントなサウンドが通奏低音のようにずっと流れています。そのため、アルバムには11曲が含まれていますけれども、ずっと同じ気持ちで聴き続けることができます。ゆったりしたダウナーなビートがさらにメランコリーを運んできますし。

 ゲスト・ボーカルとして存在感を発揮しているのはコクトー・ツインズのエリザベス・フレイザーです。彼女は「ティアドロップ」、「ブラック・ミルク」、「グループ・フォー」の3曲で天使の歌声を披露しており、アルバムのサウンドに120%マッチしています。

 また、冒頭の「エンジェル」でボーカルを披露しているのはジャマイカのルーツ・レゲエ歌手ホレス・アンディです。もう一人女性ボーカリストのサラ・ジェイという人が参加しているのですが、ちょっと訳があってネットで検索できないのが残念です。素敵な声ですが。

 本作品はサンプリングを多用していると指摘されます。私が持っているのはオリジナル盤なので、クレジットされているのはヴェルヴェット・アンダーグラウンド、アイザック・ヘイズ、キュアの3曲だけなのですが、時代が下るとクレジットは増えていっています。

 ヴェルヴェッツに通じるものがある彼らですが、サンプリングしたのは「アイ・ファウンド・ア・リーズン」。よくもまあこんな地味な曲を。キュアもヘイズも含めて、完全にマッシヴ・アタックのサウンドに組み込まれているので、騒ぎ立てるほどのことはないと思うのですが。

 このアルバムで今でも頭にこびりついているのは「マン・ネクスト・ドア」です。オリジナルは1968年にパラゴンズが発表したレゲエ・ソングです。彼らはキュアのサンプルも用いながら、見事に自家薬籠中の物にしています。中毒性の高い楽曲です。

 アルバム作りは難航して発売が予定よりも4か月もずれ込んでいます。難産の末に生まれたアルバムは元祖トリップ・ホップのマッシヴ・アタックの名をアメリカでも高めることとなりました。クワガタ・ジャケットそのままのムードが横溢する凄味のある作品です。

Mezzanine / Massive Attack (1998 Circa)