祭りばやしのように聴こえないこともないドラム・ビートで始まる「アトロシティー・エキジビション」は英国の小説家JGバラードの「残虐行為展覧会」から曲名をとった名曲です。この頃、バラードに入れ込んでいた私には納得の組み合わせでした。翻訳はまだ先でしたが。

 本作品はジョイ・ディヴィジョンのセカンド・アルバムです。本作のためのセッションは1980年3月18日から30日の間、ロンドンで行われ、アルバムが完成して発表されたのは1980年7月のことでした。この間の5月18日にイアン・カーティスは自死を選びました。

 前作発表の後、ジョイ・ディヴィジョンはバズコックスのサポートで全国ツアーを回ったり、定期的に新曲を生み出したりと順調な活動を続けていました。そんな中でのアルバム・セッションです。制作中のイアンは恍惚状態にあったのだということです。

 そんな状態は最後だったんでしょう。すでにセッションの翌月には自死を試みるなど、イアンの状況は悪化の一途をたどり、ついにはそれが実現してしまうわけですから。皮肉なことにこの事件は彼らへの注目を一気に高めます。

 本作品は発表後、たちまち全英6位となる大ヒットとなり、前作まで1週だけとはいえチャート・インします。また4月に発表していたシングル「ラヴ・ウィル・ティア・アス・アパート」もチャート・インすることになりました。まだまだ足りない結果ですけれども。

 待望のアルバムは悲劇のアルバムになってしまいました。タイトルは「クローサー」、試合を閉じる抑え投手にも使う幕引き役とでもいうべき言葉です。ジャケットはイタリアの貴族のお墓です。いずれもイアンの死とは無関係のはずなのですが...。

 圧倒的に美しいアルバムです。前作に比べると、シンセサイザーが多用されるようになり、暗く沈み込むビートも荒々しさの果てに到達した虚無の境地に達しているかのようです。イアンのボーカルも天国から歌っているようにすら聴こえます。

 ベースのピーター・フックは「歌詞を聴くと、ほんとにすばらしいなって思ったよ。とてもオープンな詩だったよな」と言っていますが、歌に込められたイアンの苦しみの深刻さには理解が及ばず、「とにかくちゃんと聴けばよかったのに本当に残念だよ」と心情を吐露しています。

 とりわけ「ハート・アンド・ソウル」から始まるB面が凄い。家の中から決して外に出ないままに育った近所のモンゴル人のことを歌ったという「ジ・エターナル」、そして♪彼らはどこにいたのか♪と絶唱する「デケイズ」の並びは圧倒的です。

 重苦しいサウンドには後のニューオーダー・サウンドも垣間見えるのですが、それをイアンの詩が引き戻す。聴き終わった後に感じるカタルシスは半端ないです。この美しく重いサウンドはまるで天国へと続いているようなものです。

 英国のポスト・パンク期の数多あるバンドの中でジョイ・ディヴィジョンは特異な位置を占めています。それは必ずしも悲劇のせいではなく、その圧倒的に美しいサウンドと胸に沈み込んでくる歌のおかげです。本作は前作と表裏の関係で彼らを表した驚異の名作です。

Closer / Joy Division (1980 Factory)