「のんとも。M」は創作アーティスト、のんと大友良英、サチコMの三人からなるトリオです。「あまちゃん」以来、とても仲の良い三人が、コロナ禍でリモート録音を駆使してお祭りを繰り広げたのがこのアルバム、その名も「ショーがはじまるョ!」です。

 最初に発表された楽曲が坂本九の大ヒット曲「明日があるさ」のカバーでした。「こんな時だからこそ、明日があるさという前向きな曲をやりたい!とカバーさせていただきました」とのんは語っています。確かにコロナ禍に翻弄されている「こんな時」にぴったりです。

 大友は「この世で一番好きな作曲家の一人が中村八大さんです」ということでこの企画を「神様がわたしたちみんなに下さったご褒美なんじゃないかって思うくらいです」とまで語っています。ノリノリの企画なわけです。

 演奏にあたるのは大友良英スペシャルビッグバンドの面々、ボーカルはのんに小泉今日子、尾美としのりというあまちゃん家族があたり、そこに「この世界の片隅に」で共演した尾身美詞、あまちゃんの海女さん片桐はいり、渡辺えりが加わって豪華さを増しています。

 「明日があるさ」を含むこの作品は「架空のショータイム」をコンセプトにしたアルバムです。チャンチキに導かれた「ショーがはじまる!」から、さまざまなオリジナル曲とカバー曲を経て、「明日があるさ」で締め、最後はRCサクセションの「さなえちゃん」で打ち上げです。

 カバー曲のうち特筆すべきは「ハッスルホイ」です。クレージーキャッツの「クレージー作戦くたばれ!無責任」の挿入歌で、青島幸男作詞、植木等の♪およびでない♪までちゃんとのんが歌ってくれています。ジャケットのヒゲはこの曲をイメージしてのことでしょう。

 また、アグネスチャンの「ひなげしの花」のストレートなアイドル・カバーもショータイムらしくてとてもいいです。何だかテレビの黄金時代を見ているような気になります。映画にとってかわってエンタメの王様になった時期です。あの頃、テレビは国民的娯楽でした。

 大友は「『あまちゃん』の音楽をつくっているときに、いつも頭の片隅にあったのがそういった昭和の楽曲たちでした」と語っており、本作でのオリジナル曲にも昭和の香りがするのはそれと通じるところがあるのでしょう。

 のんのオリジナル曲は「トキメキ」と「いつでも君は」の2曲で、そちらにも昭和の香りがします。昭和を知らない平成生まれののんですが、年輩のアーティストに可愛がられて、昭和を嬉々として演じています。面白いアーティストです。

 最後の「さなえちゃん」はまるで打ち上げです。三人が和気あいあいとしゃべりながら「さなえちゃん」を歌う。ショーの興奮冷めやらぬ中で、楽屋で繰り広げられる光景のようです。テレビ黄金期は視聴者も違和感なく打ち上げに参加している気分になったものです。

 のんの歌声は相変わらずとても素敵です。今回は清志郎スタイルなどのいつものスタイルに加えてアイドル歌謡まで披露していますが、揺れる声が何ともいえません。馴染みのある昭和スタイルのショーを繰り広げる三人。気持ちが晴れわたります。

Show Ga Hajimaruyo! / NontomoM (2020 Kaiwa(re))