リック・ウェイクマンはキース・エマーソンと並ぶ1970年代のスーパースターです。スパンコール満載のガウンに身を包み、金髪のストレート・ロン毛をなびかせてそびえたつキーボードの壁に向かう姿には魅了されたものです。

 当時の彼のソロ作品群はまさに傑作揃いでした。しかし、リックはその後、私たちを置き去りにして作品を量産しつづけ、その総数は優に100枚を超えています。もはやすべてを追っている人はそうそういないでしょう。ある意味怪物です。

 そんなリックですが、やはり商業的にも成功した初期作品には格別の思いがあるようで、「リストマニア」や「アーサー王と円卓の騎士たち」などのリメイクにも挑戦しています。本作はその流れの中の一つで、かの名作「地底探検」の完全版です。

 なお「地底探検」は発表25周年を記念して1999年に続編が制作されていますが、こちらは2012年にオリジナル作品を公式に再録音した作品です。邦題は「真説・地底探検」、正しい命名です。オリジナル発表から実に37年目の作品です。

 そもそもリックはオリジナル盤制作にあたって壮大な構想を温めていましたが、おりしも第一次オイル・ショックの影響が色濃い時期にあたり、レーベル側は十分な製作費を用意することができませんでした。ヒットするとも思っていなかったんでしょうし。

 当初構想していた2枚組は1枚に、オーケストラや合唱団も人件費を節約するためにライブ録音に、豪華ブックレットも8ページに縮小されました。その結果、音楽自体も15分以上削らざるを得ず、リック自身にとっては不本意な作品になってしまいました。

 ところがこの作品は大ヒットしました。英国で1位、米国でも3位、本人によれば1400万枚売れたそうです。こうなると後悔も消えないでしょう。当初計画通り制作していればもっとヒットしたのではないか。そんなことはないでしょうが、不完全燃焼は熾火を残しました。

 しかもオーケストラ用の楽譜が失われてしまい、ライブで再演もできない。そんな状況を変えたのは2009年に家に届いた不思議な段ボール。中から出てきた知らない楽譜の数々の中に「地底探検」の汚れた指揮者用楽譜が入っていたのだそうです。

 そこから3年を費やしていよいよ再録音にこぎつけたのが本作「真説・地底探検」です。オリジナルと同じメンバーはボーカルの元ウォーホース、アシュリー・ホルトとリック本人及びイングリッシュ・チェンバー・クワイヤのみ。もう一人のボーカルは女性になっています。

 再録音に際してもっとも心配になるのがシンセサイザーの音色です。37年前のシンセと今のシンセではサウンドがまるで異なります。ここではオリジナル盤のチープな音色をできるだけ再現しているように思います。しかし、あのぬくもりはそのままとはいきませんでした。

 とはいえ、オーケストラのサウンドは素晴らしく、大変懐かしく聴くことができました。リックは本作品を同じ指向をもったディープ・パープルのジョン・ロードに捧げています。そこも含めて、胸が熱くなりました。オリジナルには及びませんが、こういうリイシューもいいものですね。

Journey To The Centre Of The Earth / Rick Wakeman (2012 Gonzo)