ザ・カーナビーツはカーナビとは関係があろうはずもなく、その名前はスウィンギング・ロンドンの象徴でもあるカーナビ―・ストリートを由来としています。ミュージック・ライフ誌の星加ルミ子編集長の命名だということです。それまではロビンフッドでしたから、改名は正解です。

 当時のシングルには「日本のフォーク・ポップス界についに登場した、カーナビ―・サウンドのエース、ザ・カーナビーツ愈々登場!」とされています。このカーナビ―・サウンド、もしくはカーナビー・ビート・サウンドには実は彼ら以外のプレイヤーを聞いたことがありません。

 カーナビー・ストリート「の持つワイルドな雰囲気をそのまま伝えるようなパンチのきいたサウンドをカーナビー・ビート・サウンドと名付けるならば、まさにこのカーナビーツはそのエースといえる存在なのです」。実に巧妙な文章ですね。私は感心してしまいました。

 本作品はザ・カーナビーツのデビュー曲にして彼ら最大のヒット曲、ミリオンセラーともなった「好きさ好きさ好きさ」です。オリジナルは英国ザ・ゾンビーズの「アイ・ラヴ・ユー」です。英米ではヒットしませんでしたが、なぜかフィリピンではヒットしたそうです。

 日本ではこのカバーのおかげでシングル・カットもされ、洋楽としては結構なヒットになっていますから、面白いものです。歌詞は漣健児によって日本語に訳されており、これがまた素晴らしい。オリジナルに比較的忠実ながら言葉がメロディーにぴったりはまっています。

 カーナビーツはいわゆるグループサウンズのブームの中でデビューしました。もともとはレストランの専属バンドとして活動しており、そこのオーナーの熱意でデビューが実現したといいますからよほど愛されていたのでしょう。

 中心となったのは当時まだ16歳だったドラムとボーカルのアイ高野とリードギターの越川ひろしの二人です。カーナビーツはここにボーカルの臼井啓吉、ベースの岡忠夫、再度ギターの喜多村次郎を加えた5人組です。ジャケ写が1967年当時を物語っています。

 この曲の魅力は何といってもアイ高野の♪おまえのすべて~♪というシャウトです。スティックを持ちながら片手を耳にあて、もう片方の手をスティックごと客席に向けたアクションはとてもキャッチーで即座に流行しました。ほんの子どもだった私も真似したものです。

 演奏もなかなかのもので、私は本家よりも好きです。コーラス、ギター、リズム、どれをとってもシンプルな当時のサウンドで、そのガレージ・ロック的な雰囲気がかっこいいです。そこにねっとりとしたボーカルが東京っぽさをつけ加えて秀逸です。

 GSは大人たちに目の敵にされていましたが、この曲を聴くとそれも少し分かる気がします。歌謡曲とは違うビート感覚ですし、品行方正な大人社会からみれば危険な香りがしたのでしょう。カーナビ―・ストリートの雰囲気にあっているかもしれません。

 彼らはその後もしばらくヒットをとばしますが、GSブームの終焉とともにわずか2年半で解散してしまいます。その後、アイ高野はゴールデンカップス、クリエーションなどで活躍する日本を代表するボーカリストになりました。この曲が半端ないのが分かるというものです。

Sukisa Sukisa Sukisa / The Carnabeats (1967 フィリップス)