ザ・フォールはその活動中から大量のライブ・アルバムが発表されてきました。マークEスミスの没後もそのリリースはとどまることを知らない、いや、加速されてきているようです。ザッパ先生やデッドと異なり、音質良好でないところが玉に瑕ですが。

 本作品もマークの死後に発表されたものです。ライブの場所はオランダのナイメーヘンです。ナイメーヘンはオランダ東部ヘルダーラント州の町で、ロック・ファンには何といってもヴァン・ヘイレン兄弟の出身地として有名です。

 会場の名前はドルンロスジャ(?)といいます。この言葉はオランダ語で棘のある小さな薔薇という意味ですが、そんなことよりもむしろ「眠れる森の美女」のことだという点にこそ注目すべきです。ザ・フォールのライブ会場にしては随分可愛らしい名前です。

 本作品が収録されたのは1999年9月14日です。年がら年中ライブを行っていたザ・フォールですが、この9月はベルギーとオランダのツアーに費やされました。より具体的には9月14日から19日まで毎晩異なる会場でライブを行っています。

 この時のラインナップは同年4月に発表された「ザ・マーシャル・スイート」とほぼ同じです。すなわちマーク、奥さんのジュリア・ネイグル、ドラムにトム・ヘッド、ギターにネヴィル・ワイルディング、ベースにアダム・ヘラルの5人組です。

 ちなみにトム・ヘッドは8月27日のレディング・フェスティバル直前にくびになり、翌日のリーズ・フェスティバルでは復帰するというややこしいことになっていました。一緒にオランダにやって来られてひとまずよかったというところでしょう。

 ライブで披露した曲は16曲中12曲が「ザ・マーシャル・スイート」もしくは同作からのシングル・カップリング曲です。残りは、前作から1曲、次作から1曲、変なイントロが1曲ですから、昔の曲はなんと1990年の「アンド・ゼアイン」のみ、しかも最後のアンコールです。

 キャリアの長いザ・フォールですから、お客も昔の曲を聴きたいと思うでしょうが、気持ち良く無視しています。ライブの時間も小一時間と短く、約300人の観客は若干不満の残るライブだったようです。とはいえ、相手はマークですから、その被虐体験も嬉しいものでしょう。

 ライブの途中でマークがいなくなるのはお約束ですが、このライブでは「タッチ・センシティブ」の終りでいなくなり、次の「10ハウス・オブ・イヴ」はギターのネヴィルが代わりに歌っています。ちなみにネヴィルのギターは2曲目で弦が一本切れてそのまま最後まで通したそうです。

 録音はお世辞にも良いとはいえません。客の声も時折入りますし、ハウリングのような音が混ざったりします。とはいえ演奏はやはりかっこいいです。本編最後の「ケタミン・サン」が私は大好きです。うねるようなリズムとマークのシャウトがかっこよすぎます。

 ジャケットはお馴染みパスカル・ル・グラスが担当していて結構気合が入った作りです。レーベルもお馴染みのコグ・シニスターですし、音質はともかく大切にリリースされた作品です。結構、重いビートのヘビーなザ・フォール・サウンドが堪能できて幸せです。

Live at Doornroosje, Nijmegen 1999 / The Fall (2018 Cog Sinister)